めいのレッスン ~台風観察
サイェから手紙が届く。届くといっても、ふだんどおり部屋に来るようになってから郵便受けに入っていたもので、すぐそばにいるめいをみながら、なにやら、時間がすこしいりくんでいるかの錯覚をおぼえないでもない。
サイェから手紙が届く。届くといっても、ふだんどおり部屋に来るようになってから郵便受けに入っていたもので、すぐそばにいるめいをみながら、なにやら、時間がすこしいりくんでいるかの錯覚をおぼえないでもない。
床に放りだしてあった文庫本を手にとって、サイェは眺めたり鼻を近寄せたり、人差し指と中指でゆっくり撫でてみたり、あるいは表紙から裏表紙からぱらぱらとトランプをきるようにしたりする。
ヴェランダにある風鈴がなっている。 ガラスの、かるい音がいくつか、ピッチを違えて。鉄でできた風鈴は、すこし暑さがおちついたころ、ひとつ、ながい余韻を残すのがいい。
おばあちゃん、神戸から上海に行ったの? サイェと紗枝は神戸に短い旅行をしてきた。めいはそのとき、こどものころの母のはなしを聞いたのだろう。
サイェが木のスプーンのコーナーからはなれない。くるみ? なら? けやき? 素材はわからないけれど、軽い木で、茶色やこげ茶色、木目のはっきりはいったのと何種類もが大きなカゴにはいっている。
サイェ、これ、なんだかわかる? かつては勝手口と呼んでいた裏口の土間に、いくつかダンボールが積み重なっている。
サイェにはときどき、うまくできたものだけを持たせてやった。持ち歩くときににおうといけないので、ビニール袋にいれ、さらに保冷剤と一緒にべつの袋にいれ、よくしばって、小さな手提げ袋の底に。
遠方の友というわけではない、 メトロに乗れば30分もかからないところにいる友だちが、わざわざ封筒を送ってきた。
気にしなくたっていいの、昔からよくとまってたんだから。 −−−−いやあ、そんなに止まってなんていないよ。電車が遅れて学校に遅延届なんてだしたことなかったし、ストライキのときは休んだしさ。
かまどうま、ってどういうの? サイェが言うのである。 そんなの、なんで知ってる? どこで聞いた?