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ウェブ連載版『最新判例にみるインターネット上の名誉毀損の理論と実務』

ウェブ連載版『最新判例によるインターネット上の名誉毀損の理論と実務』第1回

2月 24日, 2016 松尾剛行

 
 
インターネットのない生活を、我々はもはや考えられません。そのネット上で繰り広げられるのは、さまざまな表現活動。必然的に「名誉毀損」につながりかねない場面にも遭遇します。この表現はアウトなのか、セーフなのか。そんなときに頼りになる豊富な実例をもとにした書籍『最新判例によるインターネット上の名誉毀損の理論と実務』が、2016年2月下旬に刊行されました。
けいそうビブリオフィルでは、「ウェブ連載版『最新判例によるインターネット上の名誉毀損の理論と実務』」と題したサポート解説を始めます。連載第1回は、本書の内容や現状のネット名誉毀損についてできるだけ多くの方に知っていただくために、著者・松尾剛行氏にお話をうかがいました。留学先の中国でも名誉毀損について研究してきた松尾さんならではの内容をどうぞお楽しみください。[編集部]


勁草書房編集部

:まず、簡単に自己紹介をお願いします。

松尾剛行

:このたび『最新判例によるインターネット上の名誉毀損の理論と実務』を出版することになりました、弁護士の松尾と申します。2007年9月に弁護士登録(第一東京弁護士会)をしたので、今年2016年の秋で10年目に入ります。

編集部

:弁護士としては、どのような仕事をなさってきたんですか。

松尾

:弁護士登録時から今まで、ずっと桃尾・松尾・難波法律事務所という事務所に所属しています。企業法務事務所ですので、お客様は企業の方がほとんどです。いろいろな業務を経験させていただきましたが、情報系の業務、国際業務、そしてコンプライアンス・紛争解決業務を行うことが比較的多く、インターネット上の名誉毀損に関する業務もしてきました。

編集部

:クライアントがインターネット上で名誉毀損の被害にあって困っているという相談とかでしょうか。

松尾

:もちろん、クライアントが誹謗中傷を受けて困っているという案件の対応もしてきました。ただ、インターネット上の名誉毀損では、誰もが一歩間違えれば相手の名誉を傷つけてしまいかねないという特徴があります。たとえば、インターネット上にプレスリリースを掲載する場合でも、その文言によっては、関係者の名誉を毀損してしまいます。なので、場合によっては弁護士が事前にその文言をチェックする必要があります。そういう仕事もしてきました。

 
●――インターネット上の名誉毀損、5つの特徴
 

編集部

:たしかに、インターネット上の名誉毀損は、普通の名誉毀損とは違う特徴がありそうですね。

松尾

:さまざまな方が、インターネット上の名誉毀損の特徴について議論をされていますが、本書では、裁判例をふまえてインターネット上の名誉毀損の特徴を以下の5点にまとめました。

①匿名性
②時間・空間の超越
③リンク・転載の容易性
④一般人による公衆への発信(双方向性)と読者数(層)の激変可能性
⑤インフラ化(多様化)

 

編集部

:匿名で時間・空間を超えて発信をすることができ、リンク・転載(コピペ)も簡単にできるというのは比較的わかりやすいですが、最後の2つはどういうことですか。

松尾

:そうですね。「一般人による公衆への発信(双方向性)と読者数(層)の激変可能性」というのは、特にSNS時代における「炎上」の問題を念頭においたものです。多くの人がFacebook、Twitter、Line等のSNSを使っていて、公開と設定すれば、理論的には世界中に簡単に発信ができます。しかし、一部の有名人を除けば、実際にはそれほど多くの人が見るわけではありません。おそらく自分の友達くらいしか見ないですよね。ところが、たとえば何かの拍子に有名人に紹介されたことがきっかけとなって、その投稿が多くの人の目に触れたりする可能性があります。たしかに、ポジティブに紹介されて、多くの人が支持してくれたり、商品を買ってもらったりといった状況につながるかもしれません。しかし、ネガティブな方向だと、次々に誹謗中傷を浴びる、いわゆる「炎上」「祭り」になってしまうこともあります。

編集部

:炎上は怖いですね。

松尾

:ええ。最後の「⑤インフラ化」というのは、インターネットが我々の仕事および私生活において必須のインフラストラクチャー、仕事や生活を成り立たせるうえで必須の基盤となっており、さまざまな場面でインターネットが使われていることを意味します。その結果、インターネット上の名誉毀損の態様もさまざまになっています。

 
●――従来型名誉毀損とは「あてはめ」が違う
 

編集部

:つまり、インターネット上の名誉毀損は、法律の解釈でも従来の名誉毀損とは異なる特徴があるということでしょうか。

松尾

:そこは、いろいろな見解があります。たとえば、インターネット上の名誉毀損には、従来の名誉毀損とはまったく異なる法理を適用するべきだという見解もあります。しかし、私は従来の名誉毀損の延長線上でインターネット上の名誉毀損を考えるべきという立場です。

編集部

:そうすると、インターネット上の名誉毀損にはいろいろな特徴はあるものの、結局法律的には従来の名誉毀損と同じになるんですか。

松尾

:やや専門的な話になりますが、これは「規範」と「あてはめ」の違いだと考えています。法律の世界では、規範、つまりルールがあり、それを具体的な事案にあてはめて、適用していきます。たとえば、人を殺してはいけない(=殺人罪となる)というルールがあり、これを具体的な殺人事件に適用して犯人を殺人罪として有罪とします。そして、私は「規範」については、インターネット上の名誉毀損も、従来の名誉毀損と同じ「規範」を用いるべきだけれども、具体的な「あてはめ」のところに従来の名誉毀損とは違う特徴があると考えています。

編集部

:つまり、先ほど説明されたインターネット上の名誉毀損のそれぞれの特徴は、「規範」のところでは影響しないけれども、「あてはめ」のところで効いてくるということですね。そのような見解をとられているのはどうしてですか?

松尾

:1つの理由は最高裁判所がそのような方向性を示しているから(最決平成22年3月15日参照)ということですね(笑)。ただ、もう1つの重要な理由は、インフラ化です。インターネットがインフラ化しており、我々の仕事・生活のさまざまな局面に対応したさまざまなサービスないしはメディア・媒体が存在します。本書では、そのサービスの違いにきちんとフォーカスしてきめ細かな議論をしましょうよと提唱しています。

編集部

:たしかに、新聞社のウェブサイトや政府の公式サイトに書いてある場合と、匿名掲示板やSNSに一般の人が投稿した場合では、同じようなことが書いてあっても信用性や読者数は大きく違うので、その違いを反映することが望ましいでしょうね。

松尾

:従来の名誉毀損でも、さまざまなメディア・媒体が問題となり、それぞれに応じたあてはめがなされてきました。名誉毀損についての判例法理はそのような柔軟性をもったものです。そこで、インターネット上の名誉毀損においても、規範の部分では基本的には従来の理論の蓄積を重視しながら、あてはめのところで、最新の裁判例を多く紹介し、類型化等の手法で議論を精緻化することを試みました。

 
●――膨大な裁判例をもとにした「セーフ」と「アウト」
 

編集部

:このような裁判例の収集は大変だったのではないですか?

松尾

:そりゃあ、もう大変でした!(笑)

編集部

:弁護士業務と同時並行で収集されていたのですか?

松尾

:さすがにそれは無理でした。事務所から留学させてもらえたので、その留学中に修士論文を書きました。修論テーマにインターネット上の名誉毀損を選び、研究過程で多くの裁判例を収集し、分析しました。

編集部

:修論以外にもこのテーマの研究をされていたとお聞きしましたが。

松尾

:ご縁があって学会でもインターネット上の名誉毀損(オンラインデファメーション)をテーマに発表をさせていただき、また、事務所の先輩弁護士と共著で、国際的なインターネット上の名誉毀損が問題となった裁判例(東京地判平成25年10月21日)の評釈を『ジュリスト増刊』に寄稿しました。

編集部

:留学時の学術的研究の成果と弁護士業務上の実務経験を総合したのが本書ということでしょうか。

松尾

:そういうこともできるかもしれませんね。

編集部

:本書にはいろいろと意欲的なことを盛り込んでいらっしゃるとか。本書の特徴を具体的にいうと?

松尾

:3点あります。

①インターネット上で、どの線を超えると名誉毀損となるか、いわば「セーフとアウトの線引き」について詳しく説明する。
②平成20年代(2008年以降)の最新の裁判例から、現在の裁判所の立場を明らかにすることを試みる。
③最新の理論だけではなく実務をも明らかにする。

 

編集部

:たしかに、インターネットを使っている人は、いつでも被害者になる可能性があると同時に、加害者にもなる可能性がありますから、「セーフとアウトの線引き」は興味深いでしょうね。

松尾

:インターネット上には明らかにアウトな表現も多いのですが、やはりブログやSNSに投稿される場合、どこまでがセーフかに興味をもたれる方も少なくはないと思います。本書では、それを最新の裁判例に基づき具体的に説明しました。

編集部

:実務を明らかにするために、構成にも工夫をされたとお聞きしました。

松尾

:最後の第3編では、私が、いつ発生してもまったくおかしくないような「ありそうな」事例を10個創作し、当事者の方が私のところに相談にいらっしゃった場合の回答例を具体的に記載しました。

 
●――まずは加害者にならないように
 

編集部

:そうすると、本書は模擬法律相談所なんですね。

松尾

:書籍というメディアの限界はあるのですが、その中でできるだけ具体的に説明することを試みました。

編集部

:しかも書籍だけでなく、ウェブサイトで連載をされる。それはどうしてですか。

松尾

:連載には2つの目的があります。

①本書で取り上げた重要判例についてその事例を詳しく紹介・分析し、本書では紙幅の都合上要約した判例法理をより深く理解できるようにする。
②執筆時には判例データベースに登載されていなかった最新の裁判例を検討し、本書の説明を補充する。

 

編集部

:たしかに重要な判例や最新の判例の解説があれば、本書の読者にとっても有益ですね。

松尾

:ありがとうございます。これから当面は毎週更新を目指しますので、どうぞよろしくお願いいたします。

編集部

:最後に、インターネットを利用される方に、名誉毀損について実務的な注意点をいくつか教えてくださいますか?

松尾

:まずは、自分が加害者にならないことに十分気をつけていただきたいと思います。インターネット上で「匿名」で投稿をしても、法的措置等を講じれば、誰が投稿したのかわかってしまいます。裁判例で「セーフかアウトか」が争いになっているようなギリギリの表現を行うことは基本的には回避し、ある程度の「余裕」をもった安全圏の表現をするのがいいでしょう。ただ、先ほどお話した、会社のプレスリリースのように、事情によってはどうしてもそのようなギリギリの表現をせざるをえない場合もありますが、その場合には必要に応じて専門家に相談してください。
 次に、自分が被害者になってしまったら、感情的な対応をしないことが大事です。初期対応に失敗すると、「炎上」を招きやすく、状況が悪化してしまうことも多いのです。たとえば、自分として無視すれば足りるような軽微な場合には、無視してしまうことも1つの方法です。被害が甚大で、無視はできないという場合には、自分だけの考えで対応するのではなく、専門家にも相談しながら、適切な対応を探るべきでしょう。

編集部

:どうもありがとうございました。次回からは、本書の内容に沿った具体的な解説ですね。よろしくお願いします。

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【担当者一言コメント】これだけ判例索引が充実している書籍はそうありません!
 
インターネット上の名誉毀損2016年2月25日発売!
松尾剛行著『最新判例にみるインターネット上の名誉毀損の理論と実務』
時に激しく対立する「名誉毀損」と「表現の自由」。どこまでがセーフでどこからがアウトなのか、2008年以降の膨大な裁判例を収集・分類・分析したうえで、実務での判断基準、メディア媒体毎の特徴、法律上の要件、紛争類型毎の相違等を、想定事例に落とし込んで、わかりやすく解説する。
書誌情報 → http://www.keisoshobo.co.jp/book/b214996.html
松尾剛行

About The Author

まつお・たかゆき 弁護士(第一東京弁護士会、60期)、ニューヨーク州弁護士、情報セキュリティスペシャリスト。平成18年、東京大学法学部卒業。平成19年、司法研修所修了、桃尾・松尾・難波法律事務所入所(今に至る)。平成25年、ハーバードロースクール卒業(LL.M.)。主な著書に、『最新判例にみるインターネット上の名誉毀損の理論と実務』(平成28年)、『金融機関における個人情報保護の実務』(共編著)(平成28年)、『クラウド情報管理の法律実務』(平成28年)、企業情報管理実務研究会編『Q&A企業の情報管理の実務』(共著)(平成20年)ほか。