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『教育思想事典 増補改訂版』紹介パンフレット

2017年9月、教育思想史学会編『教育思想事典 増補改訂版』が刊行されました。好評を博した初版に、近年の教育学/教育思想の重要キーワードを追加し、最新の研究動向と概念を詳説した「読む」事典。17年ぶりとなった待望の増補改訂版の紹介パンフレットをこちらのウェブサイトでもご案内します。[編集部]

 
教育思想史学会 編『教育思想事典 増補改訂版』
2017年9月刊行 A5判上製888頁
定価 本体7,800円+税
ISBN978-4-326-25122-3 《書誌情報はこちら》

 
《本事典の特色》
*近代教育の思想史的な再検討をめざす教育思想史学会が総力をあげて完成させた労作。
*初版刊行後、近年の教育学/教育思想の重要キーワード100項目以上を追加し、合計約500項目を収録。
*教育学/教育思想に関する基本概念・制度・方法などの事項に加え、人名項目も充実。
*索引を充実し、引く事典としての利便性を備えつつ、項目ごとの語義・概念史・参考文献などを詳述した「読む」事典。
*教育関係者、研究者、学習者のレファレンスに最適。
 
 
『教育思想事典 増補改訂版』 推薦のことば
 
■教育についての思考や議論を確かなものにするために
広田照幸氏(日本教育学会会長・日本大学教授)

 教育は、丁寧に考えると複雑でやっかいな事象である。よかれと思ってやってみてもうまくいかないのが教育である。「よい」と言われている方法でも、やってみるとうまくいかなかったりする。そもそも、「教育をどうすればよいか」については、たくさんの対立する主張があり、どれかが正しくて別のどれかがまちがっているというふうには断言できない。その複雑でやっかいな教育について、きちんと考えようとするときに頼りになるのが本書である。
 教育は未来を作り出す営みである。その未来を思い描くためには、教育の目的や意義、方法や内容、成果やその評価などを言葉として紡ぎ出す必要がある。しかし、ありきたりの言葉は意味があいまいだったり多義的だったりして、それがかえって思考を混乱させ、議論にすれちがいを生んでしまう。教育の世界でしばしば起きていることはこの混乱やすれちがいである。
 そうであるがゆえに、これからの教育についての思考や議論を確かなものにするためには、過去のさまざまな教育思想からさまざまな概念や理論を学ぶ必要がある。多様な理想やおびただしい失敗、たくさんの対立や論争が、教育思想の歴史の中には詰まっている。新しいことを考え出したり、議論したりしていくためのアイデアの宝庫だ。
 今の日本は、短慮の教育改革が進んでしまい、理論なき教育実践が広がってしまっている。そこには、社会の進歩に関する素朴な信頼が失われ、人間の可能性に対するシニカルな見方が広がる、思想レベルでの視野狭窄が背景にある。だからこそ、目の前の教育を思想史レベルから問い直してみる努力が必要になっているといえる。一歩引いた地点からこそ、物事の本質を見きわめ、全体像を見わたすことができる。教育政策を提案する人も批判する人も、日々の教育行政や教育実践に追われがちな人も、もっと教育についての見方を深め、教育を語る言葉をリニューアルしていってもらいたい。そのために、この事典を活用しつつ、この事典で扱われた人物や項目についてさらに深い探求をしていってほしい。
 今回の改訂では、現代の教育改革を意識した項目がたくさん盛り込まれた。「普段何げなく使っているあの概念のスタンダードな意味はこれなのか」などと、大いに勉強になる。現代の教育改革と向き合うためにも、多くの人に本書を薦めたい。
 
■混迷の時代、問題のもつれを解きほぐす手がかりとして
松下良平氏(教育思想史学会会長・武庫川女子大学教授)

 教育をめぐる議論は熱くなればなるほど、視野の狭いものになりがちです。学力、学習意欲、いじめ・自殺、安全安心、就労、等々、マスメディアやネットで話題になるほどに、受けねらいのような対策が打たれ、問題はさらにこじれていきます。
 逆説的ですが、このような時代だからこそ、教育思想は必要だということができます。熱心に教育しても混迷が深まるときには、現代人の考え方や議論を無意識のうちに拘束している近代西洋由来の「教育」の枠組みを問い直すことが必要になるからです。教育をめぐる思考の歴史的変遷や社会的多様性を見つめながら、「教育」の限界をあらわにし、教育の別の可能性を探究するということです。あるいは、一見単純な問題であってもその背後に多様な思惟が複雑に絡んでいるのであれば、問題を打開するためには、そのもつれを解きほぐすことから始めなければならないからです。
 私たち教育思想史学会は、そのような志をもって2000年春に本事典を刊行し、多くの読者に迎えられてきました。しかし未だ道半ばです。そこでこのたび、新たな項目を追加して、増補改訂版を刊行することになりました。教育について深く考えたいと思っている方々に、より豊かな思考の手がかりが届くことを願っています。
 
■いまいちど教育を捉え、考え、再構成することばを磨くために
松浦良充氏(『教育思想事典』改訂編集委員長・慶應義塾大学教授)

 『教育思想事典』初版は、ちょうど世紀転換期に刊行された。21世紀に入って、世界はさらに激しい変動を経験し、それにともなって教育の構造はますます複雑化してきている。その一方で、教育の現状を貫く原理的思考は、いわゆる「グローバル人材の育成」の名のもとに、測定のまなざしに支配されて効率性を追求すること、あるいは学習の目的や内容よりも方法や活動を優先することなど、驚くほどに単純化される傾向にある。
 現代教育の構造が複雑になっているのは、単に政治や経済など教育をとりまく環境や外的要因が錯綜しているからだけではない。人々が多様な価値観をもつようになり、自らが生きる社会やその将来について、多彩な像を抱くようになったことも大きいだろう。
 そうしたなかで私たちは、いまいちど教育を捉え、考え、再構成するためのことばをもたねばならない。そしてそうしたことばを磨くことで、互いの思考を交換し深化させ、新しい教育をつくるための行動に結びつくような議論を展開する必要がある。
 17年余の歳月を経て、教育思想史学会がこの事典の増補改訂版を企画・刊行したのは、このような決意と使命感に駆られてのことである。
 
 

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『教育思想事典 増補改訂版』主要追加項目
[事項]
 悪 依存 学力問題 キャリア教育 教育基本法 教育評価と教育測定 教員養成 共生 共同体 京都学派 グローバリゼーション ケア 言語論的転回 現象学 公共性 ジェンダー 私学 シティズンシップ 社会構築主義 障害児教育の思想 状況的学習 新自由主義 スピリチュアリティ 正義 政治と教育 戦後教育学 大学改革 対話 他者 脱構築 多文化主義 討議 都市と教育 バウハウス 表象 福祉 フランクフルト学派 暴力 ホリスティック教育 学び リテラシー 臨床・臨床教育学・臨床知 歴史的人間学 笑い
[人名] アガンベン アレント 上田薫 梅根悟 長田新 ガダマー カッシーラー 勝田守一 木村素衞 コールバーグ ジンメル デリダ ドゥルーズ 野村芳兵衛 ハイデガー バトラー フランクル フロム ベック ベルクソン ヘルダー メランヒトン メルロ=ポンティ 柳田国男 レヴィナス ローティ
 
 
【改訂編集委員】
松浦良充(委員長・慶應義塾大学)
江口潔(芝浦工業大学)
北詰裕子(東京学芸大学)
下司晶(日本大学)
西村拓生(奈良女子大学)
藤川信夫(大阪大学)
山内紀幸(山梨学院短期大学)
【追加項目選定ワーキング・グループ】
井藤元(東京理科大学)
尾崎博美(東洋英和女学院大学)
國崎大恩(神戸常盤大学)
柴山英樹(日本大学)
髙宮正貴(大阪体育大学)
辻敦子(京都ノートルダム女子大学)
日暮トモ子(目白大学)
広瀬悠三(奈良教育大学)
 
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