当然ですがいまから10年前の2008年、弊社は創立60周年を迎えました。その年は「60年のあゆみ」をまとめた三つ折のパンフレットを作成しました。せっかくなので、そのパンフレットもこの機会に改めてご紹介しながら、60周年以降の10年を振り返りたいと思います。[編集部]
■60周年パンフレットの表紙
勁草書房の社章と「60」をアレンジしたアイコンが表紙に使われていました。色味はやはり緑色系でした。
■60周年パンフレットの中面・その1
勁草書房の社是として掲げている〈真理と自由のために〉が背景となった様子、たいていの方にいつも驚かれる親会社が北陸の百貨店(大和)であることや、定番の社名の由来などを紹介しています。
「勁(つよ)い草」を象徴している社章の説明もここに。「オンバコ」という種類の植物がモチーフになっています。「オンバコ」は「オオバコ」が訛った言い方で、漢字では「車前」と書きます。『日本大百科事典』には「人によって踏み固められた所に生えるので路上植物といわれ」るとありました。
■60周年パンフレットの中面・その2
創業時からの「60年のあゆみ」と題して、各年代の主な刊行書籍を紹介しています。時代や環境を映しつつ、弊社の刊行物もゆっくりゆっくり変化しているようです。
創業当初のラインナップをみると、ビッグネームの著作が目を引きます。経済学系では都留重人らの著作が並び、法学系では我妻栄・良永和隆『民法』も創業翌年に初版が出ました。その『民法』はちょうど今年改訂され、『民法 第10版』になりました。今世紀に入って一粒社から引き継いだ、民法教科書の代名詞、いわゆる「ダットサン民法」(『民法1・2・3 第三版』)や、『民法案内』シリーズとあわせて長く読み継がれています。
その後、井村文化事業社を設立し、東南アジア諸国の翻訳出版事業(東南アジアブックス)を手がけるなど、特色ある試みにも取り組んでいました。
1980年代になると、ニューアカ・ブームの代名詞のようにも言われる浅田彰『構造と力』が刊行されて累計15万部のベストセラーになるとともに、飯田隆『言語哲学大全』など分析哲学系の書籍がいっそう充実していきます。また、フェミニズム系の書籍が数多く刊行されました。いまも続くジェンダー系分野への取り組みの基礎となっています。
この60周年パンフレットに記載はありませんが、1997年発足の「〈書物復権〉の会」にスタート時から参加しました。岩波書店・紀伊國屋書店・勁草書房・東京大学出版会・白水社・法政大学出版会・みすず書房・未来社の8社が共同でリクエストを募り、復刊を行う企画です。その後参加社に多少の変動があり、22回目を迎える2018年の現在は吉川弘文館と青土社が加わって、「〈書物復権〉10社の会」になりました。
2000年代には、『ポリティカル・サイエンス・クラシックス』シリーズや『双書現代哲学』シリーズなどが始まり、2010年以降も続いています。
2000年代なかばからは、東京国際ブックフェア(TIBF)に〈書物復権〉の会の各社とともに出展していました。新刊既刊をそろえてブースを作り、お客さまと直接やりとりできる貴重な機会でした。
■さらに少しもどって50周年記念出版企画
60周年のさらに10年前、1998年の「50周年」には『出版ダイジェスト』に「勁草書房50周年記念出版」の記事が掲載されていました(『出版ダイジェスト』は出版梓会が発行していた新聞で2011年に休刊)。
ちなみに「60年のあゆみ」の2000年代に紹介されている「東アジア長期経済統計」はこの記事にある企画です。全12巻の予定は途中で全15巻となり、いまも地道に刊行を続けています。そして、この2018年5月の今週末に第7巻『金融』が晴れて第12回配本を迎えます。残すは第1巻(経済成長と産業構造)・第8巻(インフラストラクチュア)・第10巻(国際収支)となりました。完結まであと3巻。もう少しお待ちください。
■2008年からの10年
さて、60周年から10年。2010年代になってからも、哲学、心理学、教育学、社会学、政治学、経済学、法学などの分野を中心に、年間100点余りの出版を続けています。
ここのところ各社から翻訳が立て続くキャス・サンスティーン、弊社初の翻訳書『熟議が壊れるとき』は2012年でした。その後、2015年『恐怖の法則』、2017年1月『選択しないという選択』、2017年12月『命の価値』と続き、今年2018年の夏には『インターネットは民主主義の敵か』の改々訂あたりとなる『#リパブリック』も刊行予定です。
2013年鈴木健『なめらかな社会とその敵』、2016年田中辰雄・山口真一『ネット炎上の研究』、2017年アレックス・ラインハート『ダメな統計学』など時代状況を反映した書籍とともに、各分野の入門書も多く刊行しています。特に2017年は、佐藤岳詩『メタ倫理学入門』、植原亮『自然主義入門』、柏端達也『現代形而上学入門』の好評哲学3入門書に加え、信原幸弘『情動の哲学入門』、小田中直樹『ライブ・経済史入門』、大垣尚司『金融から学ぶ会社法入門』、樋口陽一『六訂憲法入門』など、タイトルに「入門」が入っているものだけでも9冊があり、「入門書豊作」の年でした。「入門のレベル」はさておき、比較のために、同じくタイトルに「入門」が入る書籍は、2016年4冊、2015年5冊、2014年3冊、2013年6冊です。
シリーズに目をやると、『双書現代倫理学』や、『勁草法律実務シリーズ』、『フロンティア実験社会科学』、『アカデミックナビ』などのシリーズが新しく始まっています。
さらには、70周年を記念した新しいスタイルの「けいそうブックス」が2018年4月に誕生しました。齊藤誠『〈危機の領域〉』、三中信宏『系統体系学の世界』の2冊が同時刊行です。「著者の本気は読者に伝わる」をモットーにお送りする「けいそうブックス」は年内に数点刊行が続きます(詳細はこちら→【勁草書房創立70周年企画「けいそうブックス」刊行】)。
2016年1月からは編集部ウェブサイトとして、この「けいそうビブリオフィル」が始まりました。ウェブ連載や刊行書籍の紹介など、こちらも地道に続けていきたいと思います。
■60周年パンフレットの中面・その3
「60周年パンフレット」中面の右端には、それまでの主な受賞図書一覧が掲載されていました。ここからも勁草書房の歴史や移り変わりが見えてくる気がします。
2008年以降の主な受賞図書をここでご紹介いたしましょう(ここに掲載されていない受賞図書の一覧は【勁草書房「受賞」】にまとまっています)。
2008年
第37回日本図書館情報学会賞 『学術情報流通とオープンアクセス』倉田敬子著
第51回日経・経済図書文化賞 『ジェンダー経済格差』川口章著
2010年
第7回日本医学哲学・倫理学会賞 『生命倫理委員会の合意形成』額賀淑郎著
平成22年度和辻賞(著作部門) 『ウィトゲンシュタイン 最後の思考』山田圭一著
第25回女性史青山なを賞 『戦後教育のジェンダー秩序』小山静子著
日本教育行政学会学会賞 『イギリスの性教育政策史』広瀬裕子著
第33回労働関係図書優秀賞 『若者と初期キャリア』小杉礼子著
2011年
第33回サントリー学芸賞(思想・歴史部門) 『ライシテ、道徳、宗教学』伊達聖伸著
第54回日経・経済図書文化賞 『自民党長期政権の政治経済学』斉藤淳著
平成23年度和辻賞(著作部門) 『功利と直観』児玉聡著
第28回渋沢・クローデル賞本賞 『連帯の哲学 Ⅰ』重田園江著
第8回生協総研賞特別賞 『NPO再構築への道』原田晃樹・藤井敦史・松井真理子著
2012年
第21回国際公共経済学会学会賞 『情報社会と共同規制』生貝直人著
第9回日本医学哲学・倫理学会学会賞 『研究倫理とは何か』田代志門著
第34回サントリー学芸賞(思想・歴史部門) 『「国家主権」という思想』篠田英朗著
2013年
第26回和辻哲郎文化賞(学術部門) 『フレーゲ哲学の全貌』野本和幸著
紀伊國屋じんぶん大賞2013「読者とえらぶ人文書ベスト30」第4位 『なめらかな社会とその敵』鈴木健著
平成25年度和辻賞(著作部門) 『R・M・ヘアの道徳哲学』佐藤岳詩著
第17回国際開発研究 大来賞 『障害と開発の実証分析』森壮也・山形辰史著
2014年
第34回山川菊栄賞 『中絶技術とリプロダクティヴ・ライツ』塚原久美著
第36回サントリー学芸賞(政治・経済部門) 『なぜ日本の公教育費は少ないのか』中澤渉著
2014年度日本地方政治学会・日本地域政治学会学会賞 『パブリック・ガバナンスの政治学』山本啓著
第14回藤田賞 『「問い」としての公害』友澤悠季著
第31回大平正芳記念賞 『東アジア液晶パネル産業の発展』赤羽淳著
2015年
第三回福祉社会学会学術賞 『教育を家族だけに任せない』大岡頼光著
第5回内川芳美記念マス・コミュニケーション学会賞 『地域ジャーナリズム』畑中哲雄著
第32回大平正芳記念賞 『金融システム改革と東南アジア』三重野文晴著
2016年
第十八回日本社会心理学会出版賞 『レイシズムを解剖する』高史明著
環境経済・政策学会2016年度学術賞 『環境政策史論』喜多川進著
2017年
第39回サントリー学芸賞(政治・経済部門) 『フランス再興と国際秩序の構想』宮下雄一郎著
第26回 大川出版賞 『情報法のリーガル・マインド』林紘一郎著
第6回内川芳美記念マス・コミュニケーション学会賞 『ナショナリズムとマスメディア』津田正太郎著
2018年
第19回損保ジャパン日本興亜福祉財団賞 『福祉政治史』田中拓道著
もちろん受賞がすべてではありませんが、研究内容の公刊という面でのお手伝いができることを光栄に思うとともに、著者のみなさまの努力と苦労が報われた場面に感じます。
70年を迎え、これからも良書とともに時を重ねていければと存じます。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。
※勁草書房のオフィシャルな沿革は【こちら】にございます。ご参考になるでしょうか。よろしければぜひご覧ください。
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三中信宏『系統体系学の世界 生物学の哲学とたどった道のり』より、「まえがき――では、トレッキングに出発しましょうか」「あとがき――とある曼荼羅絵師ができあがるまで」
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