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『税法学原論 第8版』

 
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北野弘久 著
黒川 功 補訂
『税法学原論 第8版』

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第8版に寄せて
 
 本書税法学原論は2016 年9 月、改廃著しい税法領域のテキストとしては異例の著者逝去後の改訂版、第7 版の刊行をみた。この刊行自体極めて稀有なことであったが、その第7 版も2018 年中にはほぼ初刷数を完売し、増刷をもって注文に応える状態となっていた。そして今日第8 版の刊行に至るわけであるが、外部から見ると、その普及はいわゆる業界のシステムによって支えられていると想像されるかもしれない。すなわち、自分の弟子達に皆大学で教科書採用をさせ、公的機関や団体等からは推薦図書指定等を受けて販売促進を図るといったやり方である。ところが、本書に関してはそうした要素は微塵も存在しない。先生の教えを受けた研究者達は皆マイペースで大概ご自分の著作物を著してこれをテキストとして使用しておられるし、一貫して納税者の権利擁護の立場に立ち、権力にとって都合の悪い議論を展開してきた北野税法学は、国家機関から疎ましがられることはあっても、優遇など受けられようはずもない。
 それでは、なぜ本書は著者の没後において出版を続けていられるのであろうか。この点につき改訂者は生前の先生のあるお言葉を思い出す。晩年先生はよく「研究者はバカなくらいでちょうどよい。」と口にされた。仰られるだけならいいのだが、その後でこちらをチラッと見られるのだ。私は何か失礼だなーと憮然としたものであるが、今ならその意図が少しは分かるような気がする。若き日に大蔵省主税局の立案担当官を務めておられた先生が職を辞されて一研究者の道を歩まれようとされたとき、大蔵省サイドに、「君のことは一生大蔵省が面倒を見るから。」とまで言わしめながら、この破格の条件での慰留をけって早稲田大学の一大学院生になられた北野先生なら、確かに先の言葉を口にされる資格はあるように思われる。そうでなければ、最低でも政権与党の派閥の長や国務大臣くらいは歴任されていたであろう。いずれにせよ、先生のそうした気概が、納税者が課税権力と戦う際にその法的方途を指し示す唯一の税法学・北野税法学を形成する核となったことは間違いあるまい。本書が今日版を重ねていられるのは、北野税法学のそうした属性に由来するものといわなければなるまい。
 改訂第7 版では、更正の請求や課税処分の期間制限の延長といった税務手続をめぐる規定の整備等、国税通則法を中心とする法改正を反映させる形で改訂を行った。ただ、改訂第7 版が刊行されてから、消費税率アップと軽減税率の導入、国税犯則取締法の国税通則法への編入等(第22 章参照)、わが国の税制や本書の記述に影響を与える税法改正が少なからず行われた。本書も改訂の必要に迫られたが、その改訂作業の真っ只中に、作業の責任者である私が病に倒れ、事実上戦線離脱を余儀なくされた。それにも拘らず、こうして予定通り第8 版が刊行できたのは、偏に改訂作業チームの先生方と勁草書房編集部の竹田康夫氏のご尽力によるところといわなければならない。
 本書第8 版は、北野弘久先生が唱えられた税法学理論(納税者基本権論)はそのままに上記改正等を反映して記述を改めたものである。なお、著者の理論を少しでも説得的に展開させるため、本文中に引用されている条文、参考資料は時の経過と改正を受けてかなり差し替えられている。もっとも、今回も著者の記述内容そのものについては可能な限り手を付けないよう心掛けた。また巻末の索引も、判例索引を追加するなど不完全ながら、整理充実を試みた。
 今回の本書第8 版の出版に際しては、特に私の戦線離脱に起因してではあるが、高橋紀充(第2、3、20 章担当、担当順、以下同)、松岡基子(第10、11 章)、小池幸造(第12、25 章)、余郷太一(第13、24、26 章)、木村訓冶(第14、15章)、市木雅之(第17(共担)、22 章)の各税理士、本村大輔日本大学通信教育部講師(第5(共担)、16、17(共担)、18、19、21、23 章)には、過重負担の中、誠実な作業を遂行して頂いた。勁草書房の竹田氏には、多大なご迷惑をおかけした上、大小あらゆる面でのフォローアップを頂いた。重ねて心よりお礼申し上げる。
 
2019 年12 月
黒川 功
 
 
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