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あとがきたちよみ
『美容資本』

 
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小林 盾 著
『美容資本 なぜ人は見た目に投資するのか』[シリーズ 数理・計量社会学の応用]

「シリーズ序文[小林盾・村上あかね・筒井淳也]」「まえがき」(pdfファイルへのリンク)〉
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シリーズ序文
 
シリーズの目的
 本シリーズ「数理・計量社会学の応用」は、数理・計量社会学の最新の到達点を、一般の読者むけに発信することを目的としています。数理社会学会が2016年3月に30周年を迎え、その記念学会事業として企画されました。
 数理・計量社会学は、社会現象を数理モデルや計量データによって分析します。数理社会学会が1986年に設立されてから、この30年ほどで多くの知見が蓄積されてきました。ただ、せっかくの成果が、ともすれば一般社会にじゅうぶんに届いていないかもしれない――こうした懸念を払拭するために、このシリーズが企画されました。正式には、「数理社会学会30周年記念学会出版事業」といいます。
 
シリーズの特色
 そこで、若手から中堅の学会員が、シリーズ各巻を(原則として単著で)執筆することとなりました。学会のこれまでの成果を踏まえつつ、自由で大胆な内容となることが企図されています。
 各巻では他で扱いにくいチャレンジングなテーマが、計量データまたは数理モデルをエビデンスとして分析されます。「きっとこうだろう」と思っていたことが、もしかしたら分析の結果裏切られるかもしれません。「そんなはずはない」と、反発を感じることすらあるかもしれません。そうした知的な格闘が、たえず生まれることを期待しています。
 このシリーズは、2016年3月に数理社会学会大会の総会で、学会事業として承認されました。編集体制は、数理社会学会監修、小林盾(企画スタート時の編集理事、学会誌『理論と方法』編集長)、村上あかね(同副編集長)、筒井淳也(同企画・広報理事)シリーズ編集となっています。とはいえ、執筆内容は各巻の著者に委ねられ、著者が責任をもちます。
 
おもな読者
 読者として、大学生を中心に、高校生、社会人、大学院生、研究者などが想定されています。大学生であれば、前提知識がなくても、無理なく理解できる内容を目指しました。そのため、数式や図表は最小限とし、できるだけ言葉で説明するようになっています。
 
謝辞
 学会事業として承認されるにあたり、当時の数土直紀会長、吉川徹副会長、石田淳庶務理事にはひとかたならぬお力添えをいただきました。勁草書房渡邊光氏には、シリーズの趣旨をご理解いただき、刊行を快くお引き受けいただきました。記して感謝いたします。
 
シリーズ編者 小林盾・村上あかね・筒井淳也
 
 
まえがき
 
この本の目的
 なぜ人びとは、内面が大切だと思っていても、見た目を意識せざるをえないのでしょうか。私たちはハンサムや美人をうらやましいと感じがちですが、実際のところ彼らはほんとうにモテたり、金持ちになったり、幸せだったりするのでしょうか。
 そこで、クイズからスタートしてみましょう。世の中の人を、ハンサム、美人な人からそうでない人まで一列に並べたとき、「最初の1/4」の人たちと「最後の1/4」の人たちを比較するとします。
 
Q1 ハンサムや美人はそうでない人とくらべて、(15歳から最初の結婚までの)恋人が〜倍くらい多い(または少ない)。
Q2 ハンサムや美人はそうでない人とくらべて、世帯収入が〜万円くらい多い(または少ない)。
Q3 ハンサムや美人はそうでない人とくらべて、幸せの度合いが(10点満点で)〜点くらい高い(または低い)。
 
 答えは、1・5倍多い、147・6万円多い、0・9点高い、です。いかかでしたか(それぞれ4章、5章、6章で詳しく分析)。
 この本では、こうした美容、美しさ、容姿、見た目といったものをめぐる謎に、社会学的にアタックします。そのために、人びとの見た目がどのような原因と結果をもつのかを、解明していきます。分析の結果、美しさは平等ではなく、因果関係があって偏りが連鎖し、たとえば容姿のよい人はモテて、金持ちになり、幸せになりやすいことが明らかにされることでしょう。このように、もしかしたら美容の役割は、これまで見おとされがちだったのですが、じつは私たちの生活に不可欠な「最後の1ピース」となっている可能性があります。
 
この本の特色
 この本では、2つの特徴的なアプローチを採用します。第一に、合理的選択理論という理論を用いて、美しさをお金や株式のような「資本」と捉えて、人びとはそこに時間や労力を「投資する」と考えてみます。これを「美容資本」とよびましょう。
 そうすると、容姿は生まれつき決定されたものではなく、むしろ努力によって変えられるものとなります。さらに、投資するのはどのような人か、投資した結果どのようになるのか、といった因果関係を分析する道が拓かれます。
 第二に、混合研究法という手法によって、アンケート調査の統計分析(量的データ分析)とインタビュー調査の語りの分析(質的データ分析)を、組み合わせます。こうすることで、量的分析で全体像を俯瞰しながら、質的分析でディテールの厚い記述をすることが可能となりました。
 なお、この本は筆者の3冊目の著書となり、2冊目『ライフスタイルの社会学』(小林盾著、東京大学出版会、2017年、図はその表紙)の続編という面があります。その第1章「美人、ハンサムは得なのか」が、この本で理論的実証的に拡張されました。あわせて読めば、より理解が深まることでしょう。
 
この本の構成
 まず序章で、この本全体の解くべき問題、理論、方法が説明されます。そのあと、2つの部に分かれます。第1部美容の統計分析では、美しさの因果関係を、アンケート調査の統計分析によって明らかにしていきます。第2部美容のインタビュー分析では、キャバクラ嬢、美容師、皮膚科医といった美容関係者にインタビューし、その語りを分析します。最後の終章で、分析結果がまとめられています。
 各章は、独立していますが、順番に読むとスムーズなはずです。理解のため、各章の冒頭に要約があります。全体の内容をまず知りたい場合は、終章のQ&Aから読むとよいかもしれません。本文には書ききれなかったけど、読者に伝えたいことが、4つのコラムとして末尾にあります。
 
謝辞
 アンケート調査の回答者の方がた、インタビュー調査の対象者の方がたのおかげで、貴重なデータを得ることができました。成蹊大学文学部現代社会学科助手の渡邉悟史氏に、くりかえし原稿チェックをしていただきました。勁草書房の渡邊光氏には、シリーズ発足当初からご尽力いただき、この本が未整理のアイディア段階から完成に至るまで、つねにサポートくださいました。妻の由紀子氏には、執筆に専念できる環境を提供してもらいました。記して心より感謝いたします。
 
付記
 本研究はJSPS 科研費JP15H01969 の助成を受けたものです(基盤研究(A)「少子化社会におけるライフコース変動の実証的解明:混合研究法アプローチ」、2015〜9年度、研究代表小林盾)。「2018年社会階層とライフコース全国調査」はその成果の一部です。本研究は公益財団法人たばこ総合研究センターの委託による、「嗜好品と豊かさや幸福に関する社会学研究」研究会の研究成果の一部です。「2018年嗜好品と豊かさや幸福に関する調査」および「2018年嗜好品と豊かさや幸福に関するインタビュー調査」データの使用に際して公益財団法人たばこ総合研究センターの許可を得ました。2019年暮らしについての西東京市民調査は、成蹊大学社会調査士課程にて収集されました。この本の出版にあたり、成蹊大学学術研究成果出版助成を受けました(2019年度)。
 
 
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