10月刊行の『問答の言語哲学』について、著者入江幸男先生のブログ「哲学の森」では本書の各章の解説、追加説明を連載されています。読者の方々へのガイドとして、弊社サイトにも記事転載させていただくことになりました。全6回シリーズでお届けいたします。読む前に、読んだ後に、ぜひお楽しみください。[編集部]
拙著『問答の言語哲学』(勁草書房、2020)について、解説したり、追加説明したり、ご批判やご質問に答えたりしたいとおもいます。素朴な疑問、忌憚のないご意見、励ましの声、なども歓迎いたします。→【哲学の森|入江幸男のブログ】
やっと本が出版になりました。帯に「問いを問う」とあるのは、わたしが当初計画したタイトルが『問いを問う 問答の観点からの言語哲学』だったことの痕跡がのこっているためです。これに続いて、『問いを問うII 問答の観点からの理論哲学』『問いを問うIII 問答の観点からの実践哲学』『問いを問うIV 問答の観点からの社会哲学』を計画していました。この長期計画に変更はないのですが、その実現にはまだまだ時間がかかりそうですので、タイトルは別のものになりそうです。
この本の目的は、問答の観点から言語哲学の組み換えを目指すことですが、この本ではそのための手がかりを提供することにとどまっています。まだまだ足りない部分については、このカテゴリーで補足していくつもりです。ですから、問答の観点から言語哲学を組み替えていこうとするならば、何が足りないかを、コメントしてもらえれば助かります。
本書は序文、4つの章、後書き、から成ります。
第1章では、ブランダムの推論的意味論を紹介した後、それを改良した問答推論的意味論を提案します。
第2章では、命題の意味ではなく、ある文脈における命題の発話の意味について、それの問答推論関係から説明します。その前半は、発話が焦点を持つとはどういうことか、後半では、発話の含みについてのグライスと関連性理論の議論を紹介した後、それを改良した問答推論的語用論を提案します。
第3章では、オースティンとサールの言語行為を紹介したうえで、質問発話の特殊性を示して、発語内行為の分類を改良し、つぎに命題行為、発語内行為、発語媒介行為という言語行為の分類に「前提承認要求」という言語行為を加えることを提案します。
最後の第4章では、従来の論理的矛盾、意味論的矛盾、語用論的矛盾とは異なる「問答論的矛盾」があることを説明し、コミュニケーションが成り立つためには、この問答論的矛盾を避ける必要があることから、問答関係が成立するための超越論的条件があることを説明します。
より詳しい全体の見取り図は、「序文」の後半にあります。
序文の前半では、これまでの哲学は問いの答えにばかり注目して、問いそのものに注目することが少なかったことを指摘し、問いに注目することの重要性を訴えました。コリングウッドが指摘していたように、主張を理解するには、それがどのような問いに対する答えであるか、(答えの「相関質問」は何か)を理解することが必要です。したがって、答えの半分はすでに問いによって与えられています。答えは、問いに欠けている部分を埋めるだけなのです。問いは、答えの半製品なのです。
問いが答えの半製品であることは、発話の理解に限りません。社会制度は言語で構成されていますが、社会制度は、社会問題の解決策であり、社会問題への答えなのです。それは社会問題への答えとして正当化されています。個人の行為もまた、個人問題への解決です。個人は、その信念内容(主張内容)によってのみならず、その人が抱えている問題によって構成されています。
このように問いないし問題について考察することが重要なので、大胆にいえば、問答の観点から哲学全体を組み替えること、を大目標としています。
但し、本書は、言語哲学について、問答の観点からの見直しに挑戦するものです。
次回は、第1章の見取り図を紹介します。[編集部]
入江幸男(いりえ・ゆきお) 1953年生香川県出身。1983年大阪大学大学院文学研究科博士課程単位修得退学。現在大阪大学文学研究科名誉教授、文学博士。著書に『ドイツ観念論の実践哲学研究』(弘文堂、2001年)、『ボランティア学を学ぶ人のために』(入江・内海・水野編、世界思想社、1999年)、『コミュニケーション理論の射程』(入江・霜田編、ナカニシヤ出版、2000年)、『フィヒテ知識学の全容』(入江・長沢編、晃洋書房、2014年)。訳書に『真理』(P. ホーリッジ/入江幸男・原田淳平訳、勁草書房、2016年)。
分析哲学の成果を踏まえ言語行為について問いと推論の関係、問いと発話との関係を分析、意味論と言語行為論に新しい見方を提供する。
入江幸男 著
『問答の言語哲学』
https://www.keisoshobo.co.jp/book/b535722.html
ISBN:978-4-326-10287-7
A5判・272ページ・本体4,300円+税
本書のたちよみはこちら→【あとがきたちよみ『問答の言語哲学』】