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『会社法入門20講』

 
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菅原貴与志 著
『会社法入門20講』

「はしがき」「第6 講 機関総説・株主総会Ⅰ(冒頭)」(pdfファイルへのリンク)〉
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はしがき
 
 会社法とは,会社の設立,組織,運営,管理の一切を規律する基本法であり,会社企業の存立と活動を保障し,企業をめぐる利害関係を調整することを目的としています。機動性や柔軟性が高く,適正で効率的・合理的な企業経営を実現するという実務課題の達成のためには,会社法の基本構造を踏まえて,その重要論点を正確に理解することが必須でありましょう。
 本書は,先に上梓した拙著『企業法務入門20 講』の姉妹編であり,会社法の重要論点につき,できる限り平易で分かりやすく解説した入門書です。主に初任の企業の法務部員や総務部門の法務担当者,若手弁護士,司法書士,司法修習生等を対象として執筆しましたが,法学部生や法科大学院生のためのサブ・テキストとしても使えるように工夫を施しています。たとえば,司法試験や予備試験に出題されるような論点については,本書の中で概ね網羅できているものと思います。
 本書の総論部分に該当する第1・2 講では,「会社とは何か」および「株式会社の基本構造」を主題として,会社法の全体像を示してみました。第3 講から第20 講までが各論部分です。そこでは会社法の解釈問題を解説しながら,企業実務の視点からみた説明も付加することによって,「理論と実務の架橋」を試みたつもりです。
 また,各講の冒頭に実務的な事例(【Case】)を掲げ,その考え方の要旨(【本講のポイント】)を示した後,具体的な解説を論述しました(【解説】)。さらに,末尾には今後検討すべき事項(【発展課題】)を付記しています。これらも前著『企業法務入門20 講』と同様の構成です。
 なお,本書の執筆に際しては,筆者が長年にわたり慶應義塾大学大学院で担当している法務研究科(法科大学院)の授業内容に加えて,企業向けの各種研修・セミナーにおける講演や質疑応答なども参考としたため,講義録のような口語体で記述しています。
 本書が広く会社法務に携わる方々に少しでも役立つものになるのであれば,著者として望外の喜びです。 本書の企画・構成段階から出版に至るまで,勁草書房の山田政弘氏には,終始多大なるお世話になりました。心からお礼を申し上げます。
 
2021 年7 月
菅原 貴与志
 
 
第6 講 機関総説・株主総会Ⅰ
 
【Case】 Y会社の株主であるXは,Y社の定時株主総会に際し,Y社に対して,自らを取締役に選任することを含む数十個の議案を提案し,これら議案の要領を招集通知により株主に通知することを請求した。しかし,Y 社から議案の削減を要求され,X は,これに応じて議案の一部を削減したにもかかわらず,残る議案のうち一部が招集通知に記載されなかった。
 
本講のポイント
▶公開会社,監査役会設置会社,監査等委員会設置会社または指名委員会等設置会社の株主総会では,会社の基本事項のみを決定する。
▶株主総会の法定権限は,①取締役・監査役等の機関の選任・解任,②会社の基礎的変更に関する事項,③株主の重要な利益に関する事項などであり,それ以外の事項の決定は,取締役会に委ねられている。
▶株主総会の招集通知は,会日の2 週間前(非公開会社は1 週間前)までに発する。
▶株主には,会社が株主総会を招集する機会を利用し,自らの考えを株主総会に提案する株主提案権(議題提案権・議案提案権・議案通知請求権)がある。
▶近年は,いわゆるアクティビストによる株主提案権の動向にも注視が必要である。
 
解 説
1 機関総説
(1) 機関の意義
 会社は法人ですから(法3 条),あたかも自然人と同様に,会社自体が権利を取得し,義務を負担することができます。しかし,自然人と同様に行動できるといっても,法人とは,あくまでも観念的な存在であり,法的なフィクションにすぎません。
 したがって,会社という法人を現実に動かすためには,どうしても生身の人間の存在が必要となります。たとえば,会社が,自らの名義で,銀行から運転資金を調達するにせよ,取引先と販売代理店契約を締結するにせよ,実際には自然人がその実行を担わなければなりません。
 このため,会社においては,ある一定の地位を有する自然人の意思決定または行為が,法律上,会社の意思または行為と認められることが必要です。そのような地位を会社の機関といいます。
 会社の機関の行為が会社の行為と認められるということは,機関の行った行為(厳密には,契約など,意思表示を要素として成立する法律行為)の法律効果(権利義務などの法律関係の発生・変更・消滅)が,会社に直接帰属することを意味します。原則として,他人(機関である自然人)の行った行為の効果が本人(会社)に帰属することはありません。そこで,他人の行為の効果を本人に直接帰属させるために,代理の制度を用いることとなります(民法99 条)。
 このように,会社の事業全般にわたる包括的な代理権限を有する機関を設置すれば,機関の行為=会社の行為と認められます。この包括的な代理権限を代表権限と呼び,代表権限を有する機関を代表機関と呼びます。
 
(2) 会社の機関構造と代表機関
 株主は,出資することによって,会社を割合的に共有しますから,実質的には会社の所有者の地位にあります。しかし,所有者である株主が,会社経営の能力があるとはいえませんし,株主が多数にのぼる可能性もありますから,自分で会社の経営に直接あたることに限界があります。そこで,株主としては株主総会を組織し(法295 条),その総会を通じて取締役を選び(同329 条),経営の専門家である彼らに会社の経営を任せることにしています(第2 講4)。このように,株式会社は,原則として所有と経営が分離されているため,株主と会社経営を担う代表機関とが制度的に分化しています(法331 条2 項本文参照)。
 指名委員会等設置会社(法2 条12 号)を除けば,取締役会設置会社(法2条7 号)の代表機関は,代表取締役です(同349 条4 項・362 条3 項)。取締役会を設置しない会社では,取締役が業務執行機関であり(法348 条1 項),かつ代表機関ですが,代表取締役を定めることもできます(同349 条1 項)。
 これに対して,持分会社(合名会社・合資会社・合同会社の総称。法575 条1項)では,その社員が業務執行機関であり,かつ代表機関となることが原則です(同590 条1 項・599 条)。
 
(3) 株式会社の機関構成
 会社法では,二つの基準を使って株式会社を四つに仕分けしています。
 一つ目の基準は,会社の規模の基準です。資本金5 億円以上または負債200億円以上の株式会社が「大会社」です(法2 条6 号)。
 二つ目の基準が株式の流動性となります。株式の流動性の低い会社とは,株主の顔ぶれがあまり変わらない会社ということですが,発行する全部の株式に譲渡制限がついている会社のことです(非公開会社)。条文では「公開会社でない株式会社」と表現しています(法109 条2 項等)。これに対して,発行する株式の一部でも譲渡制限をしていなければ,「公開会社」と定義します(法2 条5号)。上場会社は当然に公開会社ですが,それ以外であっても,自由に譲渡できる株式が一部でも発行されていれば,この公開会社の概念に含まれることになります。
 大会社でかつ公開会社は,監査役会を設けて会計監査人を置くのか,委員会型(後記(4))を採用するのかという選択肢しかありません。これに対して,大会社以外でかつ非公開会社ならば,さまざまな機関構成をとることができます(法326 条~ 328 条)。たとえば,非公開会社では,取締役会を設置する必要がありません(法327 条1 項1 号)。ちなみに,大会社でもなく,発行する株式のすべてに譲渡制限がついているという企業が,日本の株式会社の典型であり,主流であり,最大多数派です。
 
(4) 指名委員会等設置会社・監査等委員会設置会社
4-1) 指名委員会等設置会社
 指名委員会等設置会社とは,指名委員会(取締役の選任・解任に関する議案を決定)・監査委員会(取締役と執行役の職務の執行を監査し,会計監査人の選任・解任・不再任に関する事項を決定)・報酬委員会(取締役と執行役の報酬の内容や方針を決定)の三つの委員会を設置する会社です(法2 条12 号)。取締役会設置会社,会計監査人設置会社でなければならず(法327 条1 項4 号・5 項),監査役は置くことができません(同条4 項)。
(以下、本文つづく。表と脚注は割愛しました。pdfファイルでご覧ください)
 
 
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