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ウェブ連載版『最新判例にみるインターネット上の名誉毀損の理論と実務』 連載・読み物

ウェブ連載版『最新判例にみるインターネット上の名誉毀損の理論と実務』第42回 

7月 07日, 2022 松尾剛行

 
記者会見での発言でも名誉毀損になる場合があります。[編集部]
 

記者会見と名誉毀損

 

はじめに

 
 提訴をする際に記者会見を開くこと自体は昔から頻繁に行われます。筆者が共同代理を務めた、2022年6月16日に食べログ(カカクコム)のアルゴリズム変更による評点引き下げが独占禁止法違反であるという判決を獲得した訴訟でも、訴訟提訴時(および判決日)に司法記者クラブで記者会見をしました。
 
 こうした記者会見はどのような要件を満たすと名誉毀損として違法となるのでしょうか。裁判例を元に検討していきましょう(以下は、『最新判例にみるインターネット上の名誉毀損の理論と実務 第3版』の執筆作業であることから、「だ」「である」調にしています)。

 

1 『最新判例にみるインターネット上の名誉毀損の理論と実務 第2版』をベースとした基本的な理解

 
(1)はじめに
 
 記者会見における発言であっても、一律に名誉毀損が否定されるということはない。具体的な状況に応じて名誉毀損は成立し得る(注1)。そして、その成否に関して裁判例上議論される事項としては、主に①社会的評価の低下の有無、および②真実性・相当性・公正な論評の法理の抗弁の関係が問題となっている。その前提が、記者会見における発言の摘示内容の認定である(以下、頁数だけを示す場合は『最新判例にみるインターネット上の名誉毀損の理論と実務 第2版』の頁数である)。
 
(2)摘示内容の認定
 
 まず、記者会見において何を摘示したかは頻繁に争われる。例えば、被告(対象者)が横領行為を行ったという理由で訴えを提起した場合において、原告(表現者)がその旨を記者会見で述べた場合、それが「一方当事者(原告・表現者)が、被告(対象者)が横領行為を行ったと主張している」旨の摘示と解釈されれば、社会的評価の低下の有無を判断する際に、そのような単なる一方当事者の主張であることが加味されるだろうし、また、真実性等の対象が、そのような主張の有無(または横領を行った疑いの有無)となる可能性もある。これに対し、被告が横領行為を行った旨の摘示と解釈されれば、普通は犯罪行為を行ったとして社会的評価の低下は認められるし、真実性の対象も横領という犯罪行為の有無となり、それが認められない場合は抗弁が成立しない可能性が高い(注2)。
 
 このような摘示内容の認定においては、一方当事者の主張であることが明記されている等、一般読者にとってそれが一方的な主張であることが容易に理解できれば、そのような主張がされたことや表現者らがそのような立場をとっていることが摘示事実となり得るものの、一方的な主張であることが分かりにくければ一般読者は主張の内容どおりの事実を摘示されたと理解するだろう(75頁)(注3)。
 
(3)社会的評価の低下
 
 摘示内容が社会的評価を低下させるかについては、一方当事者の主張であることが、一定の緩和効果、または社会的評価低下の程度が名誉毀損成立の程度に至らないと判断する方向の要素にはなり得る。しかし、これも具体的状況によるのであって、表現の内容によっては、一方的主張であることだけでは十分な緩和効果がないこともあるし、読者が当事者間の対立を十分に認識していなければ、これをいわば鵜呑みにしてしまって、社会的評価を低下させることは十分にあり得るだろう(121頁)。
 
(4)真実性等の抗弁について
 
 上記の通り、何が摘示内容かに応じて、真実性等の抗弁の適用が問題となり、当該摘示内容の真実性(公正な論評の法理であれば、前提事実の真実性)が問題となる。確かに、一方当事者の主張だと認定されたからといって全てが真実とはならないだろう(注4)。ただし、横領と摘示したとみなされた場合よりは相当以上表現者にとって有利になることは間違いないだろう。
 

2 最新裁判例の内容と傾向

 
 それでは、この問題について10年分(2013年-2022年)の裁判例リサーチの結果に基づき、第2版出版後のものを含む裁判例から、より詳細な下位規範を抽出してみよう。
 
(1)摘示内容
 
 上記でも述べたが、記者会見において摘示されたものが何か、つまり、対象者が違法なことを行ったとして、表現者が提訴した際の提訴記者会見を念頭に置くと「対象者が違法なことを行ったこと」か、それとも、「表現者が対象者が違法なことを行ったと主張している」かという点は重要な問題である(注5)。
 
 確かに、一部の裁判例は、単なる一方当事者の意見の表明にすぎないとする。
 
 #030216A は記者会見ではなく会見における資料配布の事案であるところ、対象者がDVを行った等という内容が「控訴理由骨子(妻側の主張)」の欄に記載されていたとして、その「主張を紹介しているにすぎないことは明白である」とした(それを前提に社会的評価の低下も否定した)。
 
 #011225A は、表現者が不当な懲戒請求を受けたとして提訴記者会見を行った事案で、懲戒請求には何ら理由がないとの表現者の意見を一般社会に向けて訴える趣旨の発言であると受け取るものと解されるとした(その上で社会的評価低下も否定した)(注6)。
 
 ただし、そのような判断になるのは、あくまでも、当該表現者が、自己の表現が一方当事者の意見にすぎない(摘示内容が真実だとして述べているものではない)、ということを明確に示した場合に限られる。そこで、提訴記者会見だからといってただちに全て一方当事者の意見の表明になるものではない。
 
 実際に、ジャパンビジネスラボ事件(#011128A)は、記者会見と取材に応じることの相違として、単に報道機関からの取材に応じるのとは異なり、自ら積極的に広く社会に報道されることを期待して、本件記者会見を実施し、本件各発言をしており、報道に接した一般人の普通の注意と読み方を基準とすると、それが単に一方当事者の主張にとどまるものではなく、その発言には法律上、事実上の根拠があり、その発言にあるような事実が存在したものと受け止める者が相当程度あることは否定できないとした(それを前提に社会的評価の低下を肯定した)。
 
 #270930Aは、記者の質問に答えて、対象者が監禁・どうかつが存在したことを前提に、その際の心境等を回答したこと等を踏まえ、監禁・どうかつの事実を摘示したものであるとした。その上で、訴訟提起した事実及びその訴状における表現者の主張内容のみを摘示しているところ、訴え提起は一方的な行為であるから、上記各事実は通常一般人に対象者が監禁やどうかつを行ったとの印象を強く抱かせることはないという表現者の主張を否定した(それを前提に社会的評価の低下を肯定した)。
 
 #280127Aも、記者会見の経過に照らせば、単なる別件記事の名誉毀損性に関する表現者の立場の表明に留まらず、対象者が監禁および恫喝を行ったことが真実であることを示し、その事実を前提として、これを内容とする別件記事が名誉毀損ではないとの印象を与え、別件記事について対象者が提起した訴訟がいわゆるSLAPP訴訟であることを印象付けるものであるといえるとした(それを前提に社会的評価の低下を肯定した)。
 
 #301211Aは、表現者が口利きをした旨対象者が告発したところ、表現者が記者会見で、当該告発は作り話であって、これにより表現者の名誉を侵害された旨までをも述べたところ、その内容に接した一般人をして対象者の品行・徳性について表現者を陥れようとしたのではないかとの疑念を抱かせ得るとしたものとした(それを前提に社会的評価の低下を肯定した)。
 
 #040317Aは、鑑定人である表現者が、記者会見で、鑑定結果の概要の説明とあわせて、当該鑑定結果から対象者が行った「悪事」が裁かれるとのを表現することによって、対象者が刑事事件の犯人であることを摘示するものであることを認識した上で、これを摘示したと評価できるとした(その上で社会的評価低下も肯定した)。
 
 #040113Aは、断定的な表現が認められ、現にそのような報道もあったことから、対象者が卑わいな発言をする、身体に触るなどのハラスメント行為を繰り返していたという事実等を摘示したのであって、摘示内容は単なるハラスメントの申入れを行った事実ではないとした(その上で社会的評価低下を肯定した)。
 
 #290731Aは、警察に被害届を提出することを検討せざるを得ないという内容を事実摘示だとした上で、対象者を被疑者として被害届の提出を検討するほどの客観的裏付けがあってはじめて真実性があるとした。これは記者会見をした表現者が教育機関であり、裁判所として性急にも被害届を出すなどすれば、かえって表現者のイメージを落とすことにも繋がりかねないから、という判断をしたことにも影響されている可能性があるが、一見意見・論評に見える摘示も文脈によっては事実摘示として認定される可能性があることに留意が必要である。
 
 これに関し、対象者の特定について一定の議論がある。
 
 #030312Aは、行政の記者発表で「請負業者」という表現が使われたところ、公共工事であることから、対象者が明らかとして、対象者の工事に重大瑕疵があるとの摘示とした(その上で社会的評価低下を肯定した)(注7)。
 
 また、#310328Aは、「本件組合の幹部」が組合幹部(役員)の一部の者を指すのか全員を指すのかについて明確にしない表現方法を理由に、対象者を含む役員全員に対するものとした。
 
(2)社会的評価の低下
 
 上記の検討の結果、一方当事者の主張ではなく事実を摘示しているとされる場合がある。例えば、先ほど述べた「横領」の事案であれば、対象者が横領をしたという事実を摘示したとみなされた場合である。このような場合、(表現者は当該事実をもって違法だとして訴えを提起している以上)社会的評価の低下は比較的容易に認定される。
 
 #030901Aでは、対象者たるジャーナリストが虚偽の情報を流布したという摘示が社会的評価を低下させたとした。
 
 #030224Aは、対象者が熱湯風呂に入る温熱修行に付き添い、限界を感じて出ようとした表現者を押さえつけて、意識を失わせたことが社会的評価を低下させるとした。
 
 #010531A(#020319Aで是認)は、解雇された国立大学元副学長の記者会見における発言が、国立大学の理事が論文不正の告発を叱責し隠蔽するよう要求したとの印象やハラスメントを行っているとの印象を抱かせるものと認められ、大学の名誉ないし信用を著しく毀損したとされた。
 
 #270407A(#271219Aで是認)は、対象者が内部資料を流出させたとの事実を摘示するものといえるところ、対象者が違法と評されるような行為をしたとの印象を与えるものであるから、社会的評価を低下させるという判断を是認した(注8)。
 
 なお、上記(1)の検討の結果、意見・論評とされても、ただちに名誉毀損性が否定されるものではない。
 
 #271115Aは、地震で死亡した遺族(対象者)が市長(表現者)に面談を求める手紙について、記者会見で物事の節度、有り様および礼儀というものをわきまえない手紙であったという論評としたり、説明を尽くしても、本件遺族らは、その意味を分からないあるいは理解しない体質の者であるという論評をしたことが社会的評価を低下させるとした(注9)。
 
(3)抗弁
 
 #040113A、#030224A、#271219Aは真実性を肯定した。ジャパンビジネスラボ事件(#011128A)は真実性を否定した。
 
 #270930Aは、(特殊な文脈であるが)当該紛争が社会一般の多数の者が関与することになる可能性があるものではなく、訴訟提起の事実を記者会見で公表し注意喚起する意義は認められないとして公益目的を否定した。
 
 #271115Aは、自然災害で死亡した遺族である対象者が市長である表現者への面会等を要求したことについて、表現者が記者会見で「変わった人」、「意味が分からない」、「訳の分からない失礼な文章」、「これだけ言っても意味の分からない、ご理解されない体質の人」と述べ、その異常性を強調したこと、対象者が一般人であること、通常多数の記者が集まる市長の定例記者会見においてされたものであり、市長の発言の影響力の大きさに鑑み新聞やテレビで放映されることが予想されていたこと等から意見ないし論評の域を逸脱したものとされた。
 
 #030901Aでは、昭和38年判決の法理の抗弁(317頁)が具体的事案で肯定されている。
 
 #040317Aは、消滅時効の抗弁を肯定した(注10)。
  
(4)その他
 
 #301211Aは、自己の名誉にかかわる事実を公表された人物が、そのような事実はないと否定するにとどまる限度においては、自己の名誉という権利を防御するための言論の自由の範疇に属するというべきであり、たとえその事実が真実は存在したとしても、不名誉な事実を自認しなければならない法的義務があるとまではいい難い以上、これを否定したからといって、その行為がただちに違法性を帯びることはないとしている。これは社会的評価低下の話なのか、抗弁の話なのか位置付けが曖昧であるが、どの程度の範囲であれば記者会見で述べても言論の自由とされ、どの領域を超えると名誉毀損の問題が生じるかを示唆するものとして興味深い。
 
 #020403Aは、訴訟遂行に必然的なものではない記者会見を通して広く不特定多数の人に向けて情報発信をした事実が客観的真実に反する事実により占められ、被告の名誉や信用等を侵害する場合、これを解雇理由として考慮することが許されないと解することはできないとした。労働関係の文脈であるが、記者会見が訴訟遂行に必然的ではないとした上で、そのような必然的ではないものを行って名誉を毀損すれば、責任を問われる旨を示唆する判示である(注11)。
 
 #040113Aは、代理人らが同席していたところ、内容は市議会議員のセクハラで、音声を公表していることからすれば公表された内容に従った報道がされる蓋然性は高く、そのことを予測し容認した上で記者会見をしたとして因果関係を認定した。 関連して、#280127A は「当時の被告代理人の発言と相まって、原告らの社会的評価を低下させるものということができる」としており、表現者の発言と代理人の発言が相まって社会的評価を低下させたとした(注12)。
  

3 実務上の教訓

 重要なこととしては、記者会見による名誉毀損の問題というのは決して「提訴時における一方当事者の主張だから、そのような観点から社会的評価は低下しにくいし、当該主張をしていること自体は真実なのだから、抗弁も容易に成立する」ということではないということである。
 
 実際に、訴訟の原告(記者会見の表現者)は「自己の主張が真実だ」と主張することが多い以上、文脈を踏まえて判断すると、一般読者としてこれを摘示したとおりの真実があったという旨の事実摘示と判断されることが少なくない。そうすると、社会的評価低下までは容易に認められてしまう。
 
 問題は抗弁であるが、その提訴関係に係る裁判で真実性が否定されてしまうと、名誉毀損の抗弁としての真実性が否定され、また、裁判で真実性が否定された理由によっては相当性も認められないことも十分にあり得るだろう。
 
 そのような観点を踏まえれば、記者会見をもし行うのであれば、名誉毀損の観点から、以下のような点に留意すべきであろう。
 
① 一方当事者の主張にすぎないことを慎重に配慮して明示する
②(訴状に記載された内容だ等と述べているとしても)それ以外の言動等も含め文脈として事実の摘示だとみなされないようにする
③ 仮に事実の摘示だとみなされた場合でも、真実性の抗弁が立つような明確な客観証拠のある事項に限定する
 
【資料】訴訟上の表現と名誉毀損
 
 筆者が収集した48の裁判例のうち名誉毀損責任を認めた19件を○、そうでない29件を×とした。表中、「XXXWLJPCAXXXX」はウェストロー・ジャパン、「8桁数字」は第一法規を示す。また、右端の列は、下級審・上級審を示す。
 

 
 本稿は桃尾・松尾・難波法律事務所フォーリン・リーガル・スタッフYangCancan様の協力によって完成した。ここに感謝の意を表する。
 
(注1)#260606Aは、訴えの提起が相手方に対する違法な行為といえるのは、裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められるときに限られると解するのが相当あるとして、当該訴訟提起を違法な行為とは認められないとした(ここまでは通常の判断である)。その上で、突如として「そうすると、XがY大に対して別件国賠請求事件を提起したことを記者会見において発表したことについても、これをもって違法にY大の名誉を毀損したとみることはできない。」という結論を導いているが、裁判例のこれまでの流れとは異なる判断である。なお、#040215Aも参照。
(注2)相当性の認められる可能性は理論的にはあるものの、なぜ真実性が認められないのか、という理由にもよるが、相当性が認められるために必要とされる「確実な資料、根拠」(247頁)が存在しないことの方も多いのではないか。
(注3)摘示内容は、一般読者基準に基づき認定されるところ、 #281225A が特殊な文脈だが記者会見と一般読者につき「本件訴訟は、被控訴人の日本語による本件発言そのものを問題とするものであって、通訳者の英語訳を問題とするものではないから、本件においては、本件記者会見の一般の視聴者として、英語及び日本語を解する者、日本語は解するが英語は解しない者を前提とすることとなる」と判示している。
(注4)例えば、横領と主張しているという場合に、それは事実無根であっても横領と主張しているという趣旨ではなく、横領と断定はできないが相当の根拠を持って横領と主張しているという趣旨と解されれば、相当の根拠を持って横領と主張しているというのが真実かが問われるだろう。
(注5)この点について、先に一方当事者の意見の表明とした上で、仮に事実摘示だとしても重要部分の真実性の証明があるという双方の可能性を検討するアプローチを取るものとして、#300119A参照。
(注6)#030820Aは、県知事の記者会見を報じた新聞記事の問題であるが、記事が「本県(注:福島県)商品を除外した」との表現と、県知事の発言内容、その他の表現や、同記事で言及されている内容を総合しても、一般の読者の普通の注意と読み方を基準とすれば、福島県産品の放射性物質による汚染を懸念して、意図的に福島県産の商品を東日本大震災復興応援企画から外したという事実を摘示しているとは認められないとした(それを前提に社会的評価の低下も否定した)。また、#271023Aは官房長官の「こういう、いい加減な人のいい加減な発言については、私は全く関与するつもりはありません。」との発言につき、コメントをしない趣旨と認定した(その上で社会的評価低下を否定した)。
(注7)なお、#020313Aは、「(記者会見の内容は対象者を)特定する情報は何ら含まれておらず、同人らの社会的名誉を毀損するような発言には当たらない」として同定可能性を否定しているが、特定の訴訟を前提とした記者会見であれば、その訴訟の相手方が誰かは裁判の公開によって公知の事実になっているのであり、当該特定の訴訟さえ明示されていれば、相手方の名前を明らかにしなくても同定可能性は通常認められると思われる。これに対し、#011225Bは、大量懲戒請求について一般的、抽象的に論評したものにとどまるというべきであり、これを聞いた一般の者において、対象者ら個人またはその具体的行為を対象としていることを推知するものとは認め難いから、対象者らの社会的評価を低下させるということはできないとしており、このような議論の方が相対的には説得的である。とはいえ、約2000人以上と想定される「所沢の農家」に対する名誉毀損が成立し得るとした所沢ダイオキシン事件(最判平成15年10月16日民集57巻9号1075頁。153−154頁参照)との理論的整合性はなお問題となるだろう。
(注8)ただし、誰に対する名誉毀損かは問題となる。#261218Aでは、球団の親会社の会長兼主筆がコーチ人事を覆したという摘示は、会長兼主筆の行為に対する批判を主たる目的とするものであると認められ、球団を直接論難するものではないことはもちろん、間接的にも、一般人に対し、球団に対する否定的な印象を与えるものではないとした(しかし、別の記者会見において、一歩進んでことさら文言を付加して球団および親会社との関係を強調したことから、異なる結論を導いている)。
(注9)#011219Aは、「懲戒請求1及び2が不当であることや、懲戒請求者に対し損害賠償を求める予定であることを表明したものであるところ、本件懲戒請求1に理由がなく、これが不当であるという上記表明に誤りがない」等として社会的評価を否定しているが、そもそも内容が正しいから社会的評価が低下しないのであれば、真実性の抗弁等の意味がないのであって理論的に正当化できない。
(注10)#040311Aは、それが行政の行為であることを前提に、裏付けに欠ける虚偽の説明であったと認めることもできないとしている。#030312Aは、行政の記者発表につき、発表の目的の正当性、発表の内容の性質、その真実性、発表の方法や態様、発表の必要性、緊急性などを踏まえて、発表することによる利益とそれによってもたらされる不利益とを比較衡量し、本件記者発表が正当な目的のための相当な手段であるといえるか否かを基準とした上で、重要部分について真実・相当性が欠けることを重視して抗弁の成立を否定した。
(注11)名誉毀損による損害賠償の文脈ではなく、労働者による記者会見の場における名誉毀損が就業規則に違反するかという文脈。
(注12)なお、#030901Aでは、「一般に、弁護士は、受任事件に関して記者会見をするような場合には、かかる記者会見を行うか否か、その場における発言をどのようにするかなど、法律専門家である弁護士の職責に照らして、独自の判断に基づき適切に対応することが要請されるものであるから、依頼者としては、弁護士に対し意図的に虚偽の情報を提供するなどして弁護士の判断を誤らせたなどの特段の事情がない限り、弁護士の行為について不法行為責任を負わないものと解されるのであり、このことは、弁護士の記者会見の席に依頼者が同席しており、依頼者が弁護士の発言を認識し、また認識したうえで自らが発言を行っている場合にも同様」としている。この点は、『最新判例にみるインターネット上の名誉毀損の理論と実務 第2版』189頁で述べた通り議論があり、#200926という反対の判断もあることに留意が必要である。
 
 
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松尾剛行

About The Author

まつお・たかゆき 弁護士(第一東京弁護士会、60期)、ニューヨーク州弁護士、情報セキュリティスペシャリスト。平成18年、東京大学法学部卒業。平成19年、司法研修所修了、桃尾・松尾・難波法律事務所入所(今に至る)。平成25年、ハーバードロースクール卒業(LL.M.)。主な著書に、『最新判例にみるインターネット上の名誉毀損の理論と実務』(平成28年)、『金融機関における個人情報保護の実務』(共編著)(平成28年)、『クラウド情報管理の法律実務』(平成28年)、企業情報管理実務研究会編『Q&A企業の情報管理の実務』(共著)(平成20年)ほか。