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『民法2 債権法 第4版』

 
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我妻 榮 著
有泉 亨・川井 健・野村豊弘・沖野眞已 著
『民法2 債権法 第4版』

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第4版 はしがき
 
 本書は、我妻榮先生が昭和8 年に書かれた『民法』(岩波全書)をもとに、我妻先生と有泉亨先生との共同により昭和29年に刊行されてから、有泉先生、川井健先生によって改訂がなされ、長く読み継がれてきたものである。
 平成29年のいわゆる債権法改正を契機に改訂の作業が開始された。このたび、はからずも第2 巻を私ども2 人が改訂することになった。第2 巻は、民法第3 編債権の全体にわたるものである。全3 巻のうち、最も法改正の影響の大きい巻であることはいうまでもない。また、第3 版が刊行されたのは2009年で、すでに13年を経過していることから、この間における学説・判例の展開に従って本書を書き改める必要のあるところも少なくないと考えられた。
 そこで、債権法の改正を踏まえるとともに、新しい学説・判例を取り入れて、改訂することとした(とくに、不法行為については、法改正はほとんどないが、最高裁において重要な判決が多く出されている)。私どもは、法制審議会民法(債権関係)部会の発足以来、5 年余にわたって、委員・幹事として、改正の審議に参加してきたが、その成果が十分に読者に伝えられれば幸いである。なお、第1 章〜第3章、第5 章〜第7 章は沖野が、第4 章、第8 章〜第26章は野村が担当している。改訂にあたって、改めて通読したが、全体として小型の教科書であるにもかかわらず、歴史的な経緯を丁寧に説明し、そのうえでの深みのある解釈論に説得されるところが少なくなかった。そこで、なるべく我妻先生以来のこれまでの記述をできる限り維持することとしたが、簡潔に過ぎるあまり分かりにくいところは、若干加筆して読みやすくするとともに、社会の変化により、歴史的には貴重な記述ではあるが、現代の読者にはあまりそぐわなくなった部分については、簡潔に記述するに留めた。本書がこれからも読者に愛されることを切望する。
 改訂にあたっては、勁草書房編集部の竹田康夫氏にお世話になった。心からお礼を申し上げる。
令和4 年11月
野村豊弘
沖野眞已
 
 
第3 版 はしがき
 
 このたび第3 版を刊行することになった。民法現代用語化法等の改正に伴って第2 版を公刊したのが平成17年であったが、その後、利息制限法等の改正や判例等の進展があったためである。我妻榮先生の没後、すでに35 年を経過した。この間に有泉亨先生も亡くなられたが、幸い本書は、多くの読者に支えられて今日に至っている。
 このたびの改訂にあたっても、我妻・有泉両先生の築かれた基盤の上に、両先生の筆致をできるだけ崩さないように加筆したつもりである。ダットサン民法の愛称のもとに、本書がますます大勢の人々に愛され続けられることを心から望むものである。
 今回の改訂にあたっては、従来と同じく勁草書房編集部の竹田康夫氏に大変お世話になった。厚く御礼申しあげる。
平成20年12月
川井 健
 
 
はしがき
 
 「ダットサン民法」(小回りのきく小型車)の愛称で親しまれてきた我妻栄先生著『民法』の沿革は、古くは、昭和8 年の岩波全書に溯る。それが有泉亨先生との共著となったのは、昭和29年のことである。本書には、我妻先生の手になる昭和29年の序が掲載されている。我妻先生の没後、有泉亨先生が改訂されたのが昭和51年である。本書には、有泉先生の手になる昭和51年の序も掲載されている。その後、私たち遠藤浩と川井健のほか、故水本浩元立教大学名誉教授の手による補訂等がされてきたが、出版社の一粒社の廃業に伴い、このたび遠藤浩、川井健の加筆により、新たな装いのもとに本書は勁草書房から刊行されることとなった。
 この新版においては、私たちは、我妻先生の序に示されている「通説の到達した最高水準を簡明に解説する」という方針に従いつつ、最新の立法・判例の動向を取り入れるように努めた。「著者の主観的な意見をあまり前面におしださない」という方針(我妻・序)に従い、かつ我妻、有泉両先生がされたであろう方向で加筆したつもりである。
 加筆にあたり、この書物の基礎がきわめて卓抜なものであることを痛感する次第である。上記の岩波全書が発行されて以来、すでに70年を経過した。その間の社会・経済事情の変化は実にめまぐるしいものがある。もとよりその後の数次の改訂により、そのときどきの状況に応じた加筆がされてきた。しかしながら、基本となる本書の骨組みには不変なものがあり、ここに現象の変化にかかわらず本書が長く人々に親しまれてきた原因がひそんでいると思われる。その骨組みの根幹を形成するものは、法制度に対する歴史をふまえた深い社会的洞察力と市民感覚に支えられた解釈理論のすぐれた説得力である。しかも叙述のしかたは、あるべき方向を示唆し、力強い表現となっている。
 改訂に当たっては、私たちが、我妻先生のもとで仕事をしていた頃を思いつつ、できるだけ字句を統一し、最近の用語法に従うよう努めた。改訂は、民法1 と2 を川井健、3 を遠藤浩が担当した。今後、読者の方々からのご批判をいただきながら、本書がさらに長く人々に愛され、社会の共通財産となり続けることを期待したいと思う。
 最後に、あらためて我妻、有泉両先生の学恩に感謝しつつ、改訂にさいして、たいへんお世話になった勁草書房編集部の竹田康夫氏に、厚く御礼申しあげたい。
平成15年10月
遠藤 浩
川井 健
 
 平成16年の不動産登記法、破産法、現代用語化に関する民法の改正等に伴って改訂をした。 平成17年2 月
 重版の機会に平成17年公布の会社法に関する加筆をした。 平成18年2 月
川井 健
 
 
全訂の序
 
 昭和29年に版を新しくし、その後なんどか訂正や増補を加えてきた本書も、ここ十数年の間に既存の法令の改正、新法の制定、判例の移りかわり、それに学説の発展も加わって、かなり大幅に書き改める必要にせまられていた。そして昭和48 年のはじめ頃に、我妻先生の立てられていた予定の中には、本書の全訂作業が含まれていて、一粒社の担当者との間で具体化の話し合いが行われ、執筆の態度や、書物の形など従来のものを踏襲するという方針もきまっていた。ところが悲しいことに、先生は同じ年の10月、にわかに不帰の客となられた。全訂の仕事は私一人の肩にかかってしまったのである。しかし、私の身辺を取りまく事情から仕事ははかばかしく進まなかった。それでも昭和50年の末にようやく第1 巻(民法総則・物権法)の原稿ができ上り、ここに発行の運びとなったのである。
 執筆に当たって、民法典の体系をくずさないという基本方針など、旧版を踏襲したことはいうまでもないが、特に我妻先生の見解の発展に留意し、民法講義(岩波書店刊)、民法案内(一粒社刊)を参照した。しかし問題によっては、先生の最終の意見がどの辺にあったかを明確にできない分野もあって、私個人の見解が表に出ていることも少なくないと思われる。現代の民法学の、いわば通説の到達した最高水準を簡明に解説するという「ダットサン民法」の目標をはずれていなければ幸いである。
 なお、形の上では、この版から主要な判例を註記することとし、また、全書版からB 6 判にかえたため、心もち形が大きくなった。後者は主として用紙の無駄をはぶいて、できるだけ廉価で提供しようとの趣旨から出たものである。引きつづいて第2 巻(債権法)、第3 巻(親族法・相続法)の全訂作業を進め、同じ様式で統一する予定である。
 最後に、全訂版の刊行については、終始、岩田元彦さんのお世話になった。ここに記して、感謝の意を表しておきたい。
昭和51年3 月 鎌倉の山荘にて
有泉 亨
 
 

 
 この書は、私が、昭和8 年に、岩波全書と呼ばれた叢書の一つとして書いた民法Ⅰを有泉君と二人で再検討し、有泉君が筆をとって、全面的に書き替えたものである。
 全書の民法を書いた後、私は、一方では、民法各論の理論を詳細に説くものとして、民法講義の公刊の仕事をすすめるとともに、他方では、民法理論の大綱を説くものとして、民法大意3 冊を完成した。新制度の大学の講義では、民法大意を教科書として使っている。だから、私の計画では、全書の民法はもはや存在意義のないものとなり、長く絶版にしておいたのであった。
 ところが、全書の民法に対する学生諸君の需要はなくならない。その再生復版を希望する声がかなり強い。民法大意は、民法典の編別を無視して、私の独得な体系によっているので、他の先生の講義の参考書としては不便だということや、民法大意は、民法周辺の特別法にかなり重点をおいて、全法律体系における民法の地位を明らかにしようとしているが、例えば司法科試験の準備のためなどには、民法だけをもっと簡明に説くものがほしいということなどが、その理由らしい。
 学生諸君のかような希望にはもっともな点がある。しかし、実をいうと、私はその仕事にあまり気のりがしなかった。他にもっと研究すべき問題をもっておりながら、民法の教科書だけをいろいろの形で書くことは、それほど興味のある仕事ではないからである。
 右のような事情であったが、この度、有泉君という有能な協力者をえたので、いよいよ決心して版を新たにすることにした。元来、岩波全書は、「現代の科学の一般的な理論、すなわち、いわば通説の到達した最高水準を簡明に解説すること」を目的とし、著者の主観的な意見をあまり前面におしださない方針の下に編集されたものであり、私もむろんその方針に従って書いた。だから、いま有泉君の協力によって書き替えても、全体としての統一を破るおそれは全然ない。いや、かえって、有泉君の清新な思想が打ち込まれることによって、一層その水準を高めたものだと信じている。
 
昭和29年3 月欧州に旅立つにあたって
東京大学法学部研究室にて
我妻 榮
 
 
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