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『国際関係論[アカデミックナビ]』

 
あとがき、はしがき、はじめに、おわりに、解説などのページをご紹介します。気軽にページをめくる感覚で、ぜひ本の雰囲気を感じてください。目次などの概要は「書誌情報」からもご覧いただけます。
 
 
多湖 淳 著
『国際関係論[アカデミックナビ]』

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はじめに
 
 本書は,国際関係論・国際政治学の初学者向けの教科書である。四十代の研究者がひとりで書いたもので,当然「まだまだ」の部分がある。しかし以下にあげる複数のオリジナリティがあり,粗削りであることを自覚しつつも,世に出して是非を問いたいと思う。
 第1 に,本書は,国際政治経済が戦争や安全保障に先んじて説明されるべきだと理解する。これは,国家間の協力から生まれる経済的相互依存が国際関係の本流であるととらえているためである。経済的な関係をうまく維持・制御できれば国際関係は通常,平和である。経済的な国際関係が何らかの理由で破綻することで戦争が起こりやすくなるというのが本書の考え方である。なお,戦争は,言うまでもないが多様な原因によって起こるもので,著者は経済的要因だけが戦争原因だなどと主張していないことに注意してほしい。
 第2 に,本書は,自分の意思決定やその結果が他者の意思決定に依存することに特徴づけられる戦略的相互作用を国際関係の肝(きも)として理解する(詳しくは,序章第1 節を参照)。そして,そこに「われわれと他者」「格差と不満」「信頼と不信」「正統と異端」という鍵概念を当てはめ,国際関係を論じる。こういった4 種類の鍵概念の提示は本書の核心で,特色である。
 第3 に,記述推論,因果推論,演繹推論という社会科学の方法を意識して説明する姿勢を貫いている(こちらも3 つの推論の詳細については,序章を参照)。とくに日本語によるほかの国際関係論の教科書と比べ,方法論の意識化を促す姿勢は本書の特色である。
 本書は2022 年2 月のロシアによるウクライナ全面侵攻の前に企画された。しかし,大半は侵攻後に同戦争の展開とともに書かれ,その影を読者は感じるだろう。著者は,ウクライナ戦争後の国際関係を論じるのに欠かせないと思われる基礎知識や重要な理論,論理を紹介することに注力した。本書が戦争の終結とその後の国際関係を考える上で役立てばと思う。そして,この本を読んでくださった読者が,これからの国際関係を論じ,その発展に関与してくださることを期待したい。先に示したように,本書は粗削りの作品で,未完成品である。みなさまからご批判を,できれば書いているものに基づいて建設的に,頂戴できるとしたら大変ありがたい。
 本書は,きわめて恵まれた研究教育環境の中で育まれ,さまざまな方にご支援・ご協力をいただいた。前の職場である神戸大学大学院法学研究科と現在の職場である早稲田大学政治経済学術院の元同僚・現同僚の先生方,指導学生のみなさんから多くの刺激をいただいてきた。お名前をあげることはできないが,心より御礼申し上げる。くわえて,共同研究を通じ,たくさん学ばせていただいてきた。これまたお名前はあげないが,共著者の先生・友人に感謝の言葉を伝えたい。なお,北海道大学の土井翔平さん,高知工科大学の三船恒裕さん,ワシントン大学の菊池柾慶さん,CROP-IT の内海春さんから原稿に詳細なコメントをいただいた。お名前を記して感謝を示したい。また,息子の浬・娘の紺夏が保育園時代からご指導いただいている巖剣修会の中尾哲先生をはじめとする先生方,ご関係のみなさまから多くの示唆を得て本書は書きあがった。御礼を申し上げる。剣道は戦略的相互作用の典型例である。巖剣修会の環境でたびたび思索することで本書の軸が定まり,全体の構想も固まった。浬や紺夏も自分たちが日々打ち込んでいる剣道に通じるものとして,将来どこかで国際関係論に興味を持ってくれることを願いたい。
 最後に,故・山本吉宣先生にこの教科書をささげたい。願わくば,吉宣先生に本書を手にとっていただき,「僕,よくわからないけど」に続く,鋭いコメントを頂戴したかった。しかし,それはもう叶わない。今となっては,空の高みから,吉宣先生の直の師匠であり,著者も2002 年から数年間をともに過ごさせていただいた故・J. D. シンガー先生とともに本書と僕たちを見守っていてくださることを願うほかない。
 
多湖 淳
 
 
本書の使い方
 
 本書は,大学の教科書として使用されることを念頭に書かれているが,独学にも使用できる。対象は学生だけではない。一般の方も国際関係論・国際政治学をひとりで学んでいただくことができる,「適切な学問への入り口」になるように書かれている。本書を通じて国際関係論・国際政治学が,みなさんがテレビ放送やSNS で触れるものと違い,理論と実証的な根拠に裏打ちされた深みのある社会科学であることを知っていただけたらと切に願う。
 構成は,序章から終章の全15 章立てになっている。大学では,主に「国際関係論入門」「国際政治学」といった講義名の授業で使っていただくことを想定している。大学では1 学期15 週の大学が基本だったが,14 週を100 分授業で行う大学も徐々に増えてきていると思う。その場合には,序章には本書の前提が書かれているので,初回授業で序章と第1 章をあわせて進めることが想定できる(序章は予習課題としてもよい)。また,終章は方法論に関する応用性の高い内容で,必ずしも学部の講義型授業でカバーするべきものではない。よって,第13 章までで講義を終え,試験を行い,その解説の時間に終章は手短に紹介する程度でよい。
 各章末には「要点の確認」を用意している。独学で読み進める場合には「要点の確認」で重要な論点を確かめるとよい。また,さらに先に進んだ学びを行うために,同じく各章末にある「文献ガイド」にしたがって推薦書籍を読み進めると,学びを一段階さらに深めることができるに違いない。なお,「文献ガイド」ではあえて日本語だけを選んでいる点は注意を喚起しておきたい。
※ 本書の一部は科学研究費補助金による研究(22H00050)の成果をもとに執筆されている。
 
 
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