本たちの周辺

環境倫理学を学ぶ人のためのブックリスト[勁草書房10選]


 
 気候変動は年々深刻化し、昨年にはついに「地球沸騰化」という言葉まで登場しました。人新世、SDGs、生物多様性の価値といった言葉を耳にすることも多くなるなか、環境問題に対する倫理的な考察を行う「環境倫理学」に注目が集まっています。
 現在、環境問題についての個別の処方箋がたくさん提案されていますが、それらをどう評価したらよいか迷うことも多いことでしょう。環境倫理学を学ぶことで、論点が整理でき、環境問題に対して社会がどう対応すべきなのかを、具体的に考えることができるようになると思います。
 ここでは、環境倫理学を学ぶにあたって参考になる勁草書房の本を10冊紹介します。これらはいずれも環境倫理学ならではの論点を扱っていますので、環境問題に関する他の研究書とは異なる視点を得ることができます。まとめて読むことで、それぞれの本の理解も深まることでしょう。皆さんの本選びの参考になれば幸いです。

[選書&紹介文]吉永明弘・太田和彦・寺本剛・熊坂元大

 
 

■環境倫理学を学ぶ人のためのブックリスト■

 

欧米の環境倫理学のさまざまな学説を分かりやすく紹介しています。この本を読むと、人間中心主義、人間非中心主義、ディープ・エコロジー、動物倫理学、自然の権利論、世代間倫理、エコフェミニズムといった、欧米の環境倫理学の基本的なトピックを知ることができます。
 
『環境倫理学入門――生命と環境のあいだ』
高橋広次

アメリカを中心とする英語圏の環境倫理学と、日本で発展したグローバルな環境倫理学、同じく日本のローカルな環境倫理学という三つの流れを解説し、アメリカの「環境プラグマティズム」の流れから出てきた「都市の環境倫理」を日本で初めて紹介した本です。環境倫理学の歴史的な流れをつかむのに適しています。
 
『都市の環境倫理――持続可能性、都市における自然、アメニティ』吉永明弘


 

環境倫理学に関連する文献を100冊紹介しています。前半では、アメリカの環境倫理学、グローバルな環境倫理学、ローカルな環境倫理学を学ぶための参考図書を、1冊につき見開き2頁で解説しています。後半は環境社会学や都市論など、周辺領域の文献を多数紹介しています。SDGsを学ぶためのブックガイドにもなっています。

『ブックガイド環境倫理――基本書から専門書まで』吉永明弘

2011年の東日本大震災と福島第一原発事故は、環境倫理学に大きな反省を迫るものとなりました。この本では、アメリカの環境倫理学者の原発事故への応答を紹介するとともに、災後の環境倫理学として、リスク、環境正義、環境徳倫理学、未来倫理、気候工学、人新世といったテーマを論じています。この本を読むことで、最新の環境倫理学について知ることができるでしょう。
『未来の環境倫理学』
吉永明弘・福永真弓編


 

2002年に刊行された「環境正義」に関する古典の一つです(邦訳は2022年)。分配の正義、参加の正義、当座の政治的平等の原則を提示した本として知られていますが、本書の真骨頂は、環境不正義を正当化する経済理論・社会理論を論駁している箇所にあります。中盤には原子力発電が大きく取り上げられます。大部ですが面白く読めますし、読んで損ではありません。
『環境正義――平等とデモクラシーの倫理学』
K.シュレーダー=フレチェット、奥田太郎・寺本剛・吉永明弘監訳

原発と同じく、現代社会の脅威になっているのが気候変動です。この本では気候変動に関する正義論を扱っています。代表的論者ヘンリー・シューの論文の邦語訳からはじまり、気候変動問題に関する分配の正義や世代間正義について論じられています。日本を代表する法哲学者・経済哲学者たちが執筆しており、法哲学・経済哲学のよい入門書ともいえます。
 
『気候正義――地球温暖化に立ち向かう規範理論』
宇佐美誠編


 

自然のさまざまな価値に対する感受性、そうした価値の保護や環境不正義に効果的に立ち向かうための気質や態度について考える環境徳の議論も現在の環境倫理学では注目されています。本書は環境徳倫理学についてバランスのとれた紹介がなされている入門書であり、著者のアプローチを遺伝子組替作物に適用したケース・スタディ的な議論も収録されています。
『環境徳倫理学』
ロナルド・L・サンドラー、熊坂元大訳

持続可能性という言葉は、環境問題の解決に向けて多様な人々を結びつけている不思議な言葉です。この言葉の意義と可能性をビジネス、生態系、環境質、経済成長、社会正義、ガバナンス、科学、教育、宗教、芸術などの様々な切り口から解説していきます。Q&A方式で書かれているので、自分の関心に合わせて、好きなところから読むことができます。
『持続可能性――みんなが知っておくべきこと』ポール・B・トンプソン、寺本剛訳


 

編者の一人である西條辰義が提唱している「フューチャー・デザイン」は、「仮想将来世代」を現世代のなかにつくるとか、「将来省」と「将来学部」を設置するといった考えを打ち出したもので、世代間倫理を社会に実装化する道筋を示したものといえます。本書は「フューチャー・デザイン」を哲学的に問い直す試みで、多くの哲学者が刺激的な論考を寄せています。
『フューチャー・デザインと哲学』
西條辰義・宮田晃碩・松葉類編

食の生産・流通・加工・消費が環境と私たちに与える影響を探求しています。遺伝子組み換え作物の安全性や必要性、飢餓地域への食料支援、食肉の是非、食の未来についての単純化されがちな議論をこえて、生産者、流通業者、消費者ら、それぞれの視点から望ましいフードシステムを描き出すための学びを深めることができます。北米社会哲学協会の2015年の「今年の1冊」。
『食農倫理学の長い旅――〈食べる〉のどこに倫理はあるのか』ポール・B・トンプソン、太田和彦訳