本たちの周辺

山崎佳代子『パンと野いちご』刊行記念
セルビアレシピ◎3

 

戦時下で、難民状況の中で、人びとは何を食べ、何を考えていたのでしょうか。
卵と生クリームなしのマーブル戦争ケーキ。停電で溶けだした冷凍庫の肉で銃弾に怯えながら催すバーベキュー大会……。第一次大戦、第二次大戦、ユーゴスラビア内戦、コソボ紛争と戦争の絶えないバルカン半島のセルビアに長年にわたって暮らす山崎佳代子さんが、お友達から戦下のレシピを聞きとり、『パンと野いちご』(→書誌情報)にまとめました。
じつはページの関係から泣く泣く収録を諦めたレシピもあります。そこで刊行を記念し、本には入りきらなかったレシピ、新たに書き下ろしていただいたレシピをこちらでご紹介していきます。素朴で味わい深いセルビア料理の世界へようこそ!【編集部】

 
 
肉とキャベツの煮込み(クプス サ メーソム)
купус са месом; kupus sa mesom

 

 

【材料 5人分】
キャベツ 1個
骨付き牛肉またはマトンの塊 750グラム
パプリカ 3個
玉ネギ 1個
トマト 2個 
小麦粉 大さじ1杯
植物油 少々
塩・コショウ 少々
パプリカの粉 大さじ1杯
固形スープの素 1個
イタリアン・パセリ 1束
 
【つくり方】
★深鍋に玉ネギをみじん切りにして、植物油少々でよく炒める。
★骨付き肉を入れ、ひたひたになるくらいの水を入れて、塩、コショウ、固形スープの素を加えて蓋をして、肉が柔らかくなるまで煮る。最初は強火、沸騰したら火を弱火にして、1時間半ほど。
★肉を取り出して、キャベツを八つに切って入れ、再び火にかける。
★イタリアン・パセリのみじん切りと、パプリカを粗くみじん切りにしたものを加える。最初は強火、沸騰してきたら弱火で約30分。
★トマトの皮をむき細かく刻んで加え、塩、コショウで味を調え、さらに10分ほど煮込む。
★最後に小麦粉大さじ1杯とパプリカの粉大さじ1杯に少しずつ水を加えてよく練り、少しずつスープに入れてよくかき混ぜ、取り出した肉を大きく切り分けて鍋に戻す。

 
地方によっては、干し肉の塊やベーコンの塊を入れるところもある。
 
キャベツが新鮮な晩秋から冬にかけての家庭料理の代表。書物の語り手のスラビツァが夫ジューロと営んでいた八百屋で、彼女に材料を選んでもらい、作り方を教わった。難民となったグリンフェルド一家が週末に遊びに来ていたとき、この料理を囲んだのが懐かしい。
 

『パンと野いちご』59ページより
僕がルージャさんの家に着いた日、まず昼ごはんをご馳走してくれた。翌日の朝は、朝食。朝食はとらない、コーヒーを飲むだけだ、と言ったのだけどね。僕は、そのころ、午前だけの授業だった。家に帰るのは午後一時から二時の間だったが、いつも昼ごはんが待っていた。正真正銘のスラボニア風の郷土料理、まず豚肉料理、脂ののった肉だ。それから、一週間に一度は必ず豆スープ。豚肉入りのキャベツの煮込み、牛肉のステーキとマッシュポテト。パンは買ったことがない。自分で焼いていた。一週間に一度、大きな丸いパンを三つか四つ焼く。彼女は薪の竈で料理をした。僕は薪割りをした。日曜日はご馳走だった。

 

戦時下で、難民状況の中で、人びとは何を食べていたのか。セルビアに住む著者が友から聞きとった食べ物と戦争の記憶。レシピつき。
山崎佳代子 著
『パンと野いちご 戦下のセルビア、食物の記憶』
2018年5月刊
四六判・336ページ
本体3,200円+税
ISBN:978-4-326-85194-2 →書誌情報

 
山崎佳代子(やまさき・かよこ)
1956生まれ、静岡市育ち。詩人・翻訳家。北海道大学露文科卒業後、サラエボ大学文学部、リュブリャナ民謡研究所留学を経て、1981年、ベオグラードに移り住む。ベオグラード大学文学部にて博士号取得(アバンギャルド詩、比較文学)。詩集に『みをはやみ』(書肆山田)など、翻訳書にダニロ・キシュ『若き日の哀しみ』(世界文学全集、河出書房新社)、エッセイ集に『ベオグラード日誌』(読売文学書受賞、書肆山田)など。