本たちの周辺

山崎佳代子『パンと野いちご』刊行記念
セルビアレシピ◎1

 

戦時下で、難民状況の中で、人びとは何を食べ、何を考えていたのでしょうか。
卵と生クリームなしのマーブル戦争ケーキ。停電で溶けだした冷凍庫の肉で銃弾に怯えながら催すバーベキュー大会……。第一次大戦、第二次大戦、ユーゴスラビア内戦、コソボ紛争と戦争の絶えないバルカン半島のセルビアに長年にわたって暮らす山崎佳代子さんが、お友達から戦下のレシピを聞きとり、『パンと野いちご』(2018年5月15日発売予定)にまとめました。
じつはページの関係から泣く泣く収録を諦めたレシピもあります。そこで刊行を記念し、本には入りきらなかったレシピ、新たに書き下ろしていただいたレシピをこちらでご紹介していきます。素朴で味わい深いセルビア料理の世界へようこそ!【編集部】

 
 
ヒランダル修道院の豆スープ(ヒランダルスキー・パスリ)
хиландарски пасуљ; hilandarski pasulj

 

 

【材料 5人分】
豆 600グラム(金時豆、白花豆、うずら豆などがよい)
玉ねぎ 300グラム
ニンニク 4片
オリーブ油 少々
パプリカの粉 少々
月桂樹の葉 2枚
完熟トマト 200グラム
塩・コショウ 少々
 
【つくり方】
★豆を深鍋に入れて、豆の3倍量の水に一晩、つけておく。
★翌朝、水を捨て、豆を洗い、新しい水を鍋にひたひたに入れて15分強火で煮る。火を止めたら、煮汁を捨てて水を切る。
★豆を鍋に戻し、そこに水を注ぎ、オリーブ油を少々加えて強火で煮る。沸騰したら、玉ネギのみじん切りを入れて、弱火で煮る。時々、木のヘラでかき混ぜる。
★豆がすっかり柔らかくなったら、ニンニクのみじん切りとパプリカの粉を加える。
★水気がほとんどなくなったころ、湯がいて皮をむいたトマトとイタリアン・パセリをみじん切りにして加える。弱火で長く煮つめて水分をとばし、とろみをつける。

 
ザプルシカと呼ばれるルーは使わないので、胃の負担が軽い。
 
ギリシャのアトス山には、中世から正教会の修道院が数多くある。ギリシャ、ロシア、セルビアなど、正教の国々の修道士たちが静かに祈る聖所である。女人禁制の土地。セルビア正教会のヒランダル修道院に伝わる豆スープの作り方は、新聞の日曜版の付録に載っていた。トマトの美味しい季節にどうぞ。修道院の簡素な料理が美味しいのは、祈りをこめて料理をするからだ、とセルビアのジチャ女子修道院の尼僧パトリキアさんが言っていた。
 

『パンと野いちご』285ページより
多くの語り手たちの話に登場した。家庭料理の定番。豆は安い蛋白源であり、一度に大量に作れるし、乾物だから保存がきく。軍隊や難民センターでも必ず食され、居酒屋の日替わりメニュー、学生寮の食堂にも出てくる。降誕祭や復活大祭の前の四十日間ほど続くセルビア正教会の斎(ものいみ)の時期には、肉を入れない豆スープを作る。修道院の精進料理には欠かせない。

 
セルビアレシピ◎2はこちら 》》》キャベツのサラダ
セルビアレシピ◎3はこちら 》》》肉とキャベツの煮込み(クプス サ メーソム)
★『パンと野いちご』のたちよみはこちら 》》》「はじめに」
 

『パンと野いちご』刊行記念イベント開催!
山崎佳代子×ドリアン助川「食べ物とは思い出のこと、料理とは甦りのこと」

2018年5月10日(木)20時より、東京・下北沢の本屋B&Bにて。
詳細は【こちら】
 
戦時下で、難民状況の中で、人びとは何を食べていたのか。セルビアに住む著者が友から聞きとった食べ物と戦争の記憶。レシピつき。
山崎佳代子 著
『パンと野いちご 戦下のセルビア、食物の記憶』
2018年5月発売予定
四六判・336ページ
本体3,200円+税
ISBN:978-4-326-85194-2 →書誌情報

 
山崎佳代子(やまさき・かよこ)
1956生まれ、静岡市育ち。詩人・翻訳家。北海道大学露文科卒業後、サラエボ大学文学部、リュブリャナ民謡研究所留学を経て、1981年、ベオグラードに移り住む。ベオグラード大学文学部にて博士号取得(アバンギャルド詩、比較文学)。詩集に『みをはやみ』(書肆山田)など、翻訳書にダニロ・キシュ『若き日の哀しみ』(世界文学全集、河出書房新社)、エッセイ集に『ベオグラード日誌』(読売文学書受賞、書肆山田)など。