(5)第三者提供に関する問題
ア はじめに
第三者提供については、そもそも第三者提供に該当するのか、および例外事由に該当するかが問題となる。
イ 第三者提供該当性
弁護士に個人データを提供する場合が第三者提供(法23条)になるかにつき、裁判所の立場は別れている。
東京地判平成27年10月2日ウェストロー2015WLJPCA10028009、D1-Law29014322は、「弁護士が個人情報取扱事業者の代理人として個人情報等を使用する場合には、個人情報の保護に関する法律23条にいう「第三者に提供」には該当しないものと解され」るとしたが、東京地判平成20年12月12日生命保険判例集20巻692頁28244188は、弁護士への送付について「依頼者が、弁護士に対し、訴訟事件その他一般の法律事務を依頼することは弁護士法上認められており、その依頼事件について、相手方の個人情報を提供することは、法令(弁護士法)に基づく行為であり、しかも、防御上必要な行為であって正当な行為であるから、上記個人情報提供をもって、個人情報保護法23条に違反する行為とはいえない。」としている。
要するに、前者は第三者提供ではないとする(注20)が、後者は第三者提供に一応該当するが、それが正当行為として適法とされるということである。
ここで、Q&Aにおいては、記録義務の文脈であるものの「訴訟追行のために、訴訟代理人の弁護士・裁判所に、訴訟の相手方に係る個人データを含む証拠等を提出する場合は、「財産の保護のために必要がある」といえ、かつ、一般的に当該相手方の同意を取得することが困難であることから、法第23条第1項第2号に該当し得るものであり、その場合には記録義務は適用されないものと考えられます。」(Q&A10-3)とされていることが注目に値する。個人情報委員会としては、第三者提供には該当するが、本人の同意が不要な例外事由に該当すると考えているようであることから、今後実務はこの方向で動いて行くものと思われる。
ウ 例外事由
例外事由については、「同号にいう「法令に基づく場合」には、他の法令により情報を第三者に提供することが義務づけられている場合のみならず、第三者提供を受ける具体的根拠が示されてはいるが、データを提供すること自体は義務づけられていない場合も含まれると解される」としたさいたま地川越支判平成22年3月4日判時2083号112頁が注目される。
例外に該当するとされたものに文書送付嘱託(注21)、弁護士会照会(注22)等がある。
(6)開示等請求に関する問題
開示等請求については、様々な問題があり、特に開示請求権の有無等が争われていた(注23)ものの、すでに改正法28条以下が請求権を明示したので、この点はもはや解釈論としての意義を失った。
開示請求については、インターネット上の個人情報保護との関係で興味深いものは東京地判平成27年2月23日ウェストロー2015WLJPCA02238001である。
この事案では、インターネット上で決済サービスを提供する外国の大手業者に対し、第三者が自己のクレジットカードを登録してアカウントを作成し、当該決済サービスを通じて自己のクレジットカードが不正使用されたので、そのアカウントの情報(注24)の開示を請求した。裁判所は、このうちIPアドレスは個人情報ではないとした(前述参照)が、それ以外は保有個人データであるとして、開示を命じた(注25)。
また、東京地判平成26年9月8日ウェストロー2014WLJPCA09088002、判例秘書L06930574は、大手ポータルサイトにおいてオークション等を行った者がそのアカウントが削除されたことから、保有個人データの開示を請求した。このうち、「ID登録情報は、登録日時、お客様情報(性別、生年月日、業種、職種、タイムゾーン)、メールアドレス(●●●●●メールアドレス、登録メールアドレス)、氏名・住所情報(氏名、自宅郵便番号、住所、電話番号、勤務先学校等)、Tポイント利用登録情報などからなる情報であると認められ、これらの情報によって特定の個人を識別することが可能といえる。」とした上で、IDのみであれば,電子計算機を用いて検索することができるように体系的に構成された個人情報データベースがあるものと認められるとして開示を請求した。
さらに、東京地判平成25年9月6日ウェストロー2013WLJPCA09068015、判例秘書L06830752は、保育士試験の実技試験の採点表の開示につき、個人情報保護法25条1項2号に規定する「業務の適正な実施に著しい支障を及ぼすおそれがある」ものであることを認めた(注26)。行政機関個人情報保護法においては、類似の裁判例が蓄積しているが(注27)、個人情報保護法に関する判断はまだ少なく、実務上重要と思われる。
軽微な不備については、裁判例上はそれを理由に開示した個人情報取扱事業者の行為を不適切とはしない(注28)と同時に軽微な請求書記載の不備を理由に開示義務を免れられないとしている(注29)。
なお、改正法31条(旧法28条)、本人から、当該本人が識別される保有個人データに係る措置の求めに対して、その措置をとらない旨を通知する場合またはその措置と異なる措置をとる旨を通知する場合の理由の説明について規定するものであるが、その文言が「努めなければならない」とされているところ、東京地判平成28年1月27日D1-Law29016471は「その文言が「努めなければならない」とされていることからも明らかなとおり、同条は、努力義務を定めた訓示規定にとどまるものであって、個人情報取扱事業者に対し、本人に対する明示義務ないし説明義務を課すものではない。」として、理由明示請求を棄却した。
その他、金融関係では、取引履歴やクレジットヒストリーの開示・訂正等について裁判例が積み重ねられているが、インターネット上の個人情報との関係が薄いので、取りあげない。
(7)その他の問題
東京地判平成20年4月22日ウェストロー2008WLJPCA04228014、判例秘書L06331198は、認定個人情報保護団体の苦情処理(改正法52条)につき、本人が自己の見解に固執して譲らず、他方個人情報取扱事業者がそれと異なる見解を最終回答としたために、両者の見解の対立が解消されなかったという事案について、「法42条(注:改正法52条)に基づき、又は、信義則上、更にその見解の対立の解消のために苦情処理業務を継続する義務があるとはいえない」とした。
なお、AがBに対して債務の履行を求めたところ、Bが「AがBの個人情報を適切に扱っていないからBは債務を履行しなくてもよいはずだ」といった主張をした事案において、個人情報の不適切な取扱いは、それ自体が不法行為等の問題となり得るとしても、債務不履行等の抗弁にならない等とした一連の裁判例があるが、重要性が低いので詳論は割愛する(注30)。
その他東京地判平成27年9月17日ウェストロー2015WLJPCA09178014、判例秘書L07031072、D1-Law28233584は、名誉毀損の成否の文脈における傍論ではあるが、防犯カメラの顔特徴データを万引き防止等の目的で共有するサービスについて「個人情報を第三者に無断で提供することを禁じた個人情報保護法に抵触するおそれがあるほか、提供された顔特徴データが犯歴や購入履歴などと結びついて個人が特定されれば、プライバシー侵害につながりかねないとの意見ないし論評を述べるものである。顧客の顔情報が無断で共有されているとの本件摘示事実を前提とすれば、店側が恣意的に誤って登録したとしても、当該顧客にはこれに反論し異議を唱える機会もないから、当該登録を取り消すこともできず、行ったことのない店舗で不利益な扱いを受けるおそれがあることももっともなことである。個人情報を第三者に無断で提供することを禁じた個人情報保護法に抵触するおそれがあるほか、提供された顔特徴データが犯歴や購入履歴などと結びついて個人が特定されれば、プライバシー侵害につながりかねないとの指摘も十分にあり得るところ」とした。
後編につづく。
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