本たちの周辺

『問答の言語哲学』をめぐって⑥

  
10月刊行の『問答の言語哲学』について、著者入江幸男先生のブログ「哲学の森」では本書の各章の解説、追加説明を連載されています。読者の方々へのガイドとして、弊社サイトにも記事転載させていただくことになりました。全6回シリーズでお届けいたします。読む前に、読んだ後に、ぜひお楽しみください。[編集部]
 

 
拙著『問答の言語哲学』(勁草書房、2020)について、解説したり、追加説明したり、ご批判やご質問に答えたりしたいとおもいます。素朴な疑問、忌憚のないご意見、励ましの声、なども歓迎いたします。→【哲学の森|入江幸男のブログ】
 
 

第6回(最終回) あとがきのあとがき

 
 前回で第1章から第4章の内容紹介が終わりました。
 
 本書で採用した推論主義的アプローチの基本は、命題の意味をその上流推論関係と下流推論関係によって明示化するということにありました。本書では、この推論主義アプローチを、問答推論関係へ拡張し、発話の意味や言語行為にも展開することを試みました。
 
 本書における問答の言語哲学の研究が、どういう意味を持つかは、そこからどのような下流推論が可能になるか、つまりそれを認識、実践、社会問題に適用するときに何が帰結するか、に依存するでしょう(とりあえずは、問答推論主義アプローチを認識に適用することが私の次の仕事になります)。本書に残されている課題としては、問答の観点から照応関係、文法構造を考察すること、問答論理学の形式化などがあるが、これらは、本書の議論にとっての上流推論を仕上げるという課題になるでしょう。
 
 本書が成立するには、多くの先人の仕事、多く研究者や学生からの刺激が必要だったのですが、この関係は、本書成立の上流推論となっています。本書がどのような下流推論を持つことになるのかは、読者の方々がそこから何をくみ取ってくださるかにかかっています。本書の意味は、このような上流推論関係と下流推論関係によって明示化されることになります。
 
 一つの命題の意味がそれだけで成立するのではなく、他の命題との関係の中で成立するのと同様に、書物の意味もまた一冊だけで成立するのではなく、他の書物との関係(インターテクスチャリティー)の中で成立します。作品の意味は、またジャンルを超え、媒体を越えて、他の作品と問答推論関係を持っています。人間の生きる意味もまた、他の人との関係の中で、また関係を越え、共同体を越え、時代を越えて、他の人々と問答推論関係のなかで構成され明示化されると思います。今後もこのように偏在する問答推論関係を分析したいと思っています。
 
 ご批判、ご質問、感想をお待ちしています。
 
今回が最終回です。各章見取り図を片手に、ぜひ『問答の言語哲学』をお読みください。[編集部]
 
入江幸男(いりえ・ゆきお) 1953年生香川県出身。1983年大阪大学大学院文学研究科博士課程単位修得退学。現在大阪大学文学研究科名誉教授、文学博士。著書に『ドイツ観念論の実践哲学研究』(弘文堂、2001年)、『ボランティア学を学ぶ人のために』(入江・内海・水野編、世界思想社、1999年)、『コミュニケーション理論の射程』(入江・霜田編、ナカニシヤ出版、2000年)、『フィヒテ知識学の全容』(入江・長沢編、晃洋書房、2014年)。訳書に『真理』(P. ホーリッジ/入江幸男・原田淳平訳、勁草書房、2016年)。
 


分析哲学の成果を踏まえ言語行為について問いと推論の関係、問いと発話との関係を分析、意味論と言語行為論に新しい見方を提供する。
 
入江幸男 著
『問答の言語哲学』

https://www.keisoshobo.co.jp/book/b535722.html
ISBN:978-4-326-10287-7
A5判・272ページ・本体4,300円+税
 
本書のたちよみはこちら→【あとがきたちよみ『問答の言語哲学』】