古谷利裕

古谷利裕

ふるや・としひろ  画家、評論家。1967年、神奈川県生まれ。1993年、東京造形大学卒業。著書に『世界へと滲み出す脳』(青土社)、『人はある日とつぜん小説家になる』(青土社)、共著に『映画空間400選』(INAX出版)、『吉本隆明論集』(アーツアンドクラフツ)がある。

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虚構世界はなぜ必要か?SFアニメ「超」考察
第25回(最終回)「ここ-今」と「そこ-今」をともに織り上げるフィクション/『君の名は。』と『輪るピングドラム』 (4)

虚構世界はなぜ必要か? SFアニメ「超」考察 9月 27日. 2017

『君の名は。』は、世界そのものが忘れてしまったものを決して忘れないという物語でした。そして『輪るピングドラム』は、純粋な贈与の力となって世界から積極的に消えることで、「存在するより前に消えてしまう(非)存在」を肯定する物語だと言えます(これは、主人公が、世界の潜在性そのもの=唯一神のようなものになるという、『serial experiments lain』や『魔法少女まどか☆マギカ』とは、微妙ですが決定的に違っています)。それはどちらも、「このわたし」とは別様であり得るわたしを、「この世界」とは別様であり得る世界を、存在し得るものとして、潜在的に存在しているものとして、想像し、思考するフィクション(虚構世界)の意味を肯定的に物語っているように思われます。

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虚構世界はなぜ必要か?SFアニメ「超」考察
第24回「ここ-今」と「そこ-今」をともに織り上げるフィクション/『君の名は。』と『輪るピングドラム』 (3)

虚構世界はなぜ必要か? SFアニメ「超」考察 9月 13日. 2017

現実には起こらなかったことにまつわる、誰も思い出すことのできない記憶を、正確に掘り起こそうとすること。奇妙な言い方かもしれませんが、フィクションをそのようなものだと考えることができると思います。

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虚構世界はなぜ必要か?SFアニメ「超」考察
第23回「ここ-今」と「そこ-今」をともに織り上げるフィクション/『君の名は。』と『輪るピングドラム』 (2)

虚構世界はなぜ必要か? SFアニメ「超」考察 8月 23日. 2017

この物語は、入れ替えと分岐(分割)の物語だといえます。まず、主人公の二人、三葉と瀧の、心と体が入れ替わります。そして、一つの彗星が二つに分岐して、その片割れが落下して大災害を引き起こします。しかし、入れ替わった二人が協力することで、一つの世界からもう一つ別の世界が分岐し(片割れし)、災害で多くの人が死んだ世界から、皆が無事に避難できた世界へと、この世界の「現実」が片割れした方へと入れ替えられます。

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虚構世界はなぜ必要か?SFアニメ「超」考察
第22回「ここ-今」と「そこ-今」をともに織り上げるフィクション/『君の名は。』と『輪るピングドラム』 (1)

虚構世界はなぜ必要か? SFアニメ「超」考察 8月 02日. 2017

『君の名は。』で起こっているのも、三葉と瀧という、決して出会うことのできない2人に間の「入れ替わり」であるはずです。ここでは時間があらかじめずれていて、瀧が三葉を知った(入れ替わった)のは、三葉が死んでから三年も経った後だったからです。三葉が瀧に会いに行った時、瀧は未だ三葉を知らず、瀧が三葉に会いに行った時、既に三葉はこの世にいない。出会うことが不可能な2人を「入れ替わり」によって強引に関係づけるということは、再会することのない2人の(本来は顕在化することのない)ギャップを、編集によって作り出す『ほしのこえ』とさほど変わらないといえます。しかし、『君の名は。』の特筆すべきところは、出会うことが不可能である2人を、なんとかして出会わせてしまうというところにあると考えます。ここに、「ここ-今」と「そこ-今」という隔たった二つの「今」の系を、共に成立するものとして織り込もうとする「同時」の創造があるといえるように思います。

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虚構世界はなぜ必要か?SFアニメ「超」考察
第21回 哲学的ゾンビから意識の脱人間化へ/『ハーモニー』と『屍者の帝国』

虚構世界はなぜ必要か? SFアニメ「超」考察 7月 12日. 2017

哲学的ゾンビと呼ばれる思考実験があります。オーストラリアの哲学者、デイヴィッド・チャーマーズが考案した唯物論に反対する議論です。チャーマーズは、「意識」は空間や時間と同様に宇宙の根本原理の一つであり、物理によって意識を還元する(物理的事実によって意識を説明する)ことはできないだろうと考えています。彼は、情報論的汎心論とでもいうような立場をとっており、一貫性のある情報処理系には原初的な意識の萌芽のようなものが自動的に宿ると考えます。

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