グロティウスは1583年、オランダのデルフトの名家に生まれた。若くして才能を開花させたグロティウスは、11歳でライデン大学に入学し、1598年にはフランスへの外交使節に加わって、オルレアン大学から法学博士号を授与されている。
当時のオランダは、1568年に始まったスペインに対する独立戦争のさなかにあった。スペインとの休戦は1609年に実現したが、独立が正式に承認されたのは1648年のウェストファリア条約でのことである。
1603年、シンガポールでポルトガルの交易船サンタ・カタリーナがオランダの商船団の攻撃を受け、戦利品としてアムステルダムに曳航された。船と積荷は競売に附され、東インド会社に当時のイングランド政府の国家予算に匹敵すると言われるほどの莫大な利益をもたらした。東インド会社は、若きグロティウスに、会社の行動の合法性と正当性に関する意見書の作成を依頼した。
当時のオランダは、スペインに対する独立戦争を遂行する一方、ポルトガルに対抗して東インド交易に参入しようとしていた(当時スペインとポルトガルは、スペイン国王がポルトガル国王を兼ねる同君連合の状態にあった)。絹織物、陶器、胡椒類等の交易は莫大な富をもたらした。……
カール・シュミットは『政治神学』の冒頭で、「主権者とは、例外事態(Ausnahmezustand)について決定する者である」と断言する。Ausnahmezustandは、非常事態と訳されることもある。
引き続いてシュミットは、主権概念は限界概念(Grenzbegriff)であるとする。限界概念とは、比喩的に言えば、遠近法の消失点である。われわれが暮らす、この世界だけが実在する世界だと思われている日常的な世界と、そんなものが存在するとは思ってもみなかった、尋常ではない外側の世界とを連絡する概念である。……
「憲法学の散歩道」書籍化第2弾『歴史と理性と憲法と』が2023年5月1日に発売となりました。第32回までの連載分に書き下ろし2章分が加わり、長谷部さんならでは散歩道を進むと意外かつ奥深い世界が開けてきます。そして、お待たせしました。第3シーズン、はじまります。[編集部]
第33回 わたしは考える?
ルネ・デカルトは1596年3月31日、トゥレーヌ地方のラ・エ(La Haye)で生まれた。この町は現在ではデカルトと呼ばれる。父親のヨアヒムは高等法院付きの法律家で、親類の多くは法律家か医師であった。……