Posts in category

憲法学の散歩道

0 0
憲法学の散歩道 9月 13日, 2022 長谷部恭男

憲法学の散歩道
第32回 道徳理論の使命──ジョン・ロックの場合

 ジョン・ロックは1632年8月29日、イングランド南西部のサマセットに生まれた。父親は治安判事の書記や弁護士として働いた法律家で、1642年に議会とチャールズ1世の間で戦闘が開始されると、議会側の軍に参加した。ロックは父親が仕えた治安判事の推挽でロンドンのウェストミンスター校に入学し、さらにオクスフォードのクライスト・チャーチ・コレッジに進学した。1684年に除名されるまで、彼はクライスト・チャーチに籍を置くことになる。……

続きを読む
0 0
憲法学の散歩道 8月 09日, 2022 長谷部恭男

憲法学の散歩道
第31回 高校時代のシモーヌ・ヴェイユ

 シモーヌ・ヴェイユは、截然として容赦がない。彼女によると、「哲学の適切な方法は、解決不能な諸問題のあらゆる解決不能性を明晰に理解し、ただそれらを熟考することである。じっとたゆむことなく、年月を経ても、希望を抱くこともなく、辛抱強く待ちつつ。この規準に照らすと、本当の哲学者はわずかしかいない。わずかならいるとさえ言いがたい。……」

続きを読む
0 0
憲法学の散歩道 6月 14日, 2022 長谷部恭男

憲法学の散歩道
第29回 憲法学は科学か

 明治時代の日本は、ドイツから2つの憲法原理を輸入した。君主制原理と国家法人理論である。君主制原理は、天皇主権原理とも呼ばれる。ごく単純化して言うと、上杉慎吉が唱導したのは君主制原理であり、美濃部達吉が唱導したのは国家法人理論である。
 君主制原理は、国家権力はもともとすべて、君主(天皇)が掌握しているとする。しかし、国家権力を君主が実際に行使する際は、君主が自ら定めた憲法(欽定憲法)にもとづいて行使する。大日本帝国憲法のもっとも核心的な条文である第4条は、次のように定める。……

続きを読む
1 0
憲法学の散歩道 5月 17日, 2022 長谷部恭男

憲法学の散歩道
第28回 法律を廃止する法律の廃止

今回は、少々頭の体操の様相を帯びている。新世社から刊行されている拙著『憲法』は、現在第8版である。その448頁に次のような括弧書きの注釈がある(章と節の番号で言うと14.4.5)。

もっとも、19世紀半ばまでのイギリスでは、ある法律を廃止する法律が廃止されると、元の法律は復活するという法理が通用していた。法令の「廃止」がどのような効果を持つかは、個別の実定法秩序が決定する問題であって、概念の本質や論理によって一般的に決まる問題ではない。

 これは、いわゆる違憲判決の効力論に関する注釈である。違憲判決の効力という標題の下で通常議論されているのは、法令違憲の判断が最高裁によって下された場合、その法令の身分はどうなるかである。……

続きを読む