連載・読み物

掌の美術論
第14回 嘘から懐疑へ――絵画術と化粧術のあわい

芸術とは嘘をつく技術である、という言説は、たびたび認められるものだ。それは芸術を真実から遠ざけるための批判ともなり得るものではあるが、むしろそこにこそ芸術の真髄を見る見解が、近代フランスに登場する。17世紀の色彩派の画家ロジェ・ド・ピールは、ルーベンスの作品に認められる誇張された色や光の表現が「化粧」(白粉や虚飾を意味するフランス語「fard」)に他ならないと認めながらも、この「化粧」による理想化を施し、鑑賞者を欺くことこそ、絵画の本質であるとした。

By |2024-03-18T10:31:13+09:002024/3/21|連載・読み物, 掌の美術論|

掌の美術論
第13回 握れなかった手

2歳の娘がある晩、寝る前にこの本を読んでくれと、枕元に持ってきた本は、『アンカット・ファンク 人種とフェミニズムをめぐる対話』だった。文字をまだ読めぬ彼女は、黄色と白と灰色のファンキーな装丁に惹かれたのだろう。俗に言う「ジャケ買い」である。もちろん「人種」も「フェミニズム」も彼女にとっては触れたことがない言葉だ。読んでくれと頼まれたからには、と、長らく「積読」になっていたこの本の序文から音読を始めた。

By |2024-02-25T10:53:15+09:002024/2/22|連載・読み物, 掌の美術論|

憲法学の散歩道
第37回 価値なき世界と価値に満ちた世界

フィリッパ・フットは、アメリカ合衆国のグラヴァー・クリーヴランド大統領の孫にあたる。オクスフォードのサマヴィル・コレッジを卒業した彼女は、同コレッジで長く哲学を教え、カリフォルニア大学をはじめとするアメリカの諸大学でも教鞭をとった。  彼女が1958年に公表した論文に、「道徳的議論」がある。論文の冒頭で、彼女はリチャード・ヘアの指令主義(prescriptivism)を取り上げている。……

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