掌の美術論
第14回 嘘から懐疑へ――絵画術と化粧術のあわい
芸術とは嘘をつく技術である、という言説は、たびたび認められるものだ。それは芸術を真実から遠ざけるための批判ともなり得るものではあるが、むしろそこにこそ芸術の真髄を見る見解が、近代フランスに登場する。17世紀の色彩派の画家ロジェ・ド・ピールは、ルーベンスの作品に認められる誇張された色や光の表現が「化粧」(白粉や虚飾を意味するフランス語「fard」)に他ならないと認めながらも、この「化粧」による理想化を施し、鑑賞者を欺くことこそ、絵画の本質であるとした。