掌の美術論

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第7回 リーグルの美術論における対象との距離と触覚的平面

美術史家による観察において、視覚が重要な感覚となることは言うまでもないが、触覚についてはどうなのだろう、と、ふと疑問に思い、この連載では第5回目の記事から19世紀末に遡って美術史家の著述における触覚についての記述を再読している。すると、「触覚」が意味する感覚の、意外なまでのヴァリエーションに、戸惑いを感じることがある。

By |2023-10-22T15:46:29+09:002023/8/18|連載・読み物, 掌の美術論|

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第6回 時代の眼と美術史家の手
――美術史家における触覚の系譜(後編)

前回の記事ではハインリヒ・ヴェルフリンの『美術史の基礎概念』(1915年)を取り上げながら、触覚的な価値に基づくイメージ分析について紹介した。実のところそうした方法論自体は、バーナード・ベレンソンやアロイス・リーグルといった美術史家たちが19世紀末から20世紀初頭にかけて書いたものに見られたものだった。ではこうした傾向は、どのような思想的系譜のうえに位置づけられるだろうか。

By |2023-10-22T15:40:16+09:002023/6/29|連載・読み物, 掌の美術論|

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第5回 時代の眼と美術史家の手
――美術史家における触覚の系譜(前編)

2020年春から、コロナ禍で国内外の多くの展覧会が開催を見合わせたり延期したりした。代わりに多く見かけるようになったのが「ヴァーチャル・ミュージアム」と呼ばれる企画だ。インターネットに繋いだパソコンやタブレットさえあれば、家にいながらにして幾つかの海外の企画展の展示室風景を3Dの再現で見ることができた。そうした特設サイトでは、気に入った作品をクリックすればその詳細画像とキャプションを読むことができる工夫もなされていた。自粛期間が続くあいだ、美術館のこうした取り組みは重要な気晴らしの時間を提供してくれた。

By |2023-08-28T19:25:34+09:002023/5/30|連載・読み物, 掌の美術論|

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第4回 機械的な手と建設者の手

手が勝手に動いて、思いもよらないような線を描くという体験は、誰にでもあるはずだ。幼い子供はある段階から、線を描きながら、その線に意味を与えていくことができるようになる。丸のようなものを描く。そして子供はそこに、順番に名前を与えてく。「このまるはたまごだよ。たまごじゃないよ。さなぎだよ。さなぎじゃないよ。なまえなの」。

By |2023-08-28T19:32:10+09:002023/4/26|連載・読み物, 掌の美術論|

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第3回 自由な手

近現代美術の中に登場する「手」は、しばしば観察者の知覚を裏切るような現実を私たちに突きつけてくるものであるからこそ、重要な位置づけを与えられてきた。 もちろん手のかたちは、昔から絵画や三次元的な造形物のモチーフに使われた。身体の一部の型取りやそのイメージを奉納する古くからのヨーロッパの習慣において、手もまたその対象であったし、キリスト教美術の伝統では「神の右手」は、人間の眼で知覚することができない神聖な存在を換喩的に表象するイメージであった。フランス王家において王権の象徴(レガリア)とされたものの中には、「正義の手」と呼ばれる王笏がある。また芸術家による手のモチーフだけの習作も、決して珍しいことではない。

By |2023-08-28T19:34:47+09:002023/3/23|連載・読み物, 掌の美術論|

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第2回 自己言及的な手 

ルーヴル美術館に、興味深い一枚の素描がある。1775年にフランス王室によって購入された時、この作品はミケランジェロの「手」によるものだとされた。実際に描いたのはミケランジェロではなくてバルトロメオ・パッサロッティであったとする説、あるいはアンニバーレ・カラッチであったとする説もある。いずれにせよこの素描の「手」が誰のものなのかを最終的に決定づける見解は示されていない。

By |2023-08-28T19:37:13+09:002023/2/22|連載・読み物, 掌の美術論|

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第1回 緒言

この連載のタイトルには二つの意図が込められている。その一つは、各々の記事を、掌編小説のように手軽に読める、短く完結した美術論として書いてみよう、というものだ。じっくり時間をかけて火にかけている煮込み料理がくつくつと音を立てているのを聞きながら、山の中腹のバス停でバスが来るのを待ちながら、あるいは出勤電車の中で、ふと気づいたときにタブレットや携帯を取り出し読むことができる、そのような文章を書いてみたいと思った。……

By |2023-01-27T12:18:37+09:002023/1/27|連載・読み物, 掌の美術論|
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