憲法学の散歩道
第21回 道徳対倫理──カントを読むヘーゲル
お待たせしました、「憲法学の散歩道」再開です。これまでの連載は書き下ろし2編を加えて『神と自然と憲法と――憲法学の散歩道』と題し、装い新たに単行本となります。来る11月15日発売、どうぞお楽しみに。[編集部]
はせべ・やすお 早稲田大学法学学術院教授。1956年、広島生まれ。東京大学法学部卒業、東京大学教授等を経て、2014年より現職。専門は憲法学。主な著作に『権力への懐疑』(日本評論社、1991年)、『憲法学のフロンティア 岩波人文書セレクション』(岩波書店、2013年)、『憲法と平和を問いなおす』(ちくま新書、2004年)、『Interactive 憲法』(有斐閣、2006年)、『比較不能な価値の迷路 増補新装版』(東京大学出版会、2018年)、『憲法 第8版』(新世社、2022年)、『法とは何か 増補新版』(河出書房新社、2015年)、『憲法学の虫眼鏡』(羽鳥書店、2019年)ほか、共著編著多数。
お待たせしました、「憲法学の散歩道」再開です。これまでの連載は書き下ろし2編を加えて『神と自然と憲法と――憲法学の散歩道』と題し、装い新たに単行本となります。来る11月15日発売、どうぞお楽しみに。[編集部]
法史学者のブライアン・シンプソン(Alfred William Brian Simpson)は、1931年にイギリス国教会の牧師の末っ子として生まれた。1951年、オクスフォードのクィーンズ・コレッジに入り、法学を学んだ。1955年から73年まで、リンカーン・コレッジのフェロウを務める。その後、ケント大学教授、ミシガン大学教授等を歴任する。逝去したのは、2011年である。
シンプソンの没後に刊行された著書に『『法の概念』に関する考察』がある。……
フランスの違憲審査機関である憲法院(Conseil constitutionnel)の1958年の創設から1986年にいたるまでの主要な決定の評議の記録が本としてまとめられている*1。どの決定の評議録もすこぶる面白い(憲法学者でない方がお読みになって面白いかどうかは別の話である)。たとえば1971年7月16日の評議と決定は、憲法院の機能自体を根本的に変革したと言われる。……
レオ・シュトラウスは、クルト・リーツラーの思想に関する記念講演で、マルティン・ハイデガーについて次のように語っている。
[ハイデガーと]同じ程度にドイツの、いやヨーロッパの思想に影響を与えた哲学教授を見出そうとすれば、ヘーゲルまで遡る必要がある。それでもヘーゲルの同時代には、ヘーゲルと並ぶ、少なくとも明白な愚かしさに陥ることなく、彼と比較し得る哲学者がいた。……
1932年にパリで出会って以降、レオ・シュトラウスとアレクサンドル・コジェーヴは、生涯にわたって対話を続けた。
アレクサンドル・コジェーヴは、1902年5月11日、モスクワの裕福なブルジョワの家庭に生まれた。彼は1920年、革命の勃発したロシアを逃れ、カール・ヤスパースの下で博士論文を執筆する。
1926年末、彼はパリに移って研究を続け、1933年から39年まで、高等研究院でヘーゲルの『精神現象学』に関する講義を行った。この講義には、レイモン・アロン、ジョルジュ・バタイユ、アンドレ・ブルトン、モーリス・メルロー・ポンティ、ジャック・ラカン等が出席した。……