長谷部恭男

長谷部恭男

はせべ・やすお  早稲田大学法学学術院教授。1956年、広島生まれ。東京大学法学部卒業、東京大学教授等を経て、2014年より現職。専門は憲法学。主な著作に『権力への懐疑』(日本評論社、1991年)、『憲法学のフロンティア 岩波人文書セレクション』(岩波書店、2013年)、『憲法と平和を問いなおす』(ちくま新書、2004年)、『Interactive 憲法』(有斐閣、2006年)、『比較不能な価値の迷路 増補新装版』(東京大学出版会、2018年)、『憲法 第7版』(新世社、2018年)、『法とは何か 増補新版』(河出書房新社、2015年)、『憲法学の虫眼鏡』(羽鳥書店、2019年)ほか、共著編著多数。

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憲法学の散歩道
第13回 消極的共有と私的所有の間

憲法学の散歩道 10月 27日. 2020

 アリストテレスの『政治学』は、その第2巻で、プラトンが『国家篇』で展開した理想の国家像を批判している。アリストテレスによれば、プラトンが描いているのは、全市民が子どもも妻も資産もすべてを共有する体制である。
 実際に、プラトンが『国家篇』第5巻で描いているのは、「守護者」と呼ばれる国家の支配者層に限っての話であり、しかも、それは普通、「共有」という概念から想定されるような体制ではない。支配者層のメンバーにとっては、どんな物も「自分の物」ではない。どの女性が「自分の妻」ということもなく、どの子どもが「自分の子ども」ということもない。すべてが共有されているというよりは、誰も何も所有していない状態である。……

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憲法学の散歩道
第12回 plenitudo potestatisについて

憲法学の散歩道 9月 29日. 2020

 テューダー朝のヘンリー8世は、イングランド国教会を創設したことで知られる。
 彼は、兄アーサーの未亡人であったキャサリン・オヴ・アラゴンと結婚したが、男子に恵まれなかった。ヘンリーは、その原因が、聖書の禁ずる近親婚であるために神の怒りに触れたことにあると言い始め、ローマ教皇に婚姻の無効を宣言するよう求めた。……

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憲法学の散歩道
第11回 ジェレミー・ベンサムの「高利」擁護論

憲法学の散歩道 8月 26日. 2020

 ジョン・メイナード・ケインズの『雇用・利子および貨幣の一般理論』は、終わり近くの第23章で「高利usury」に関するアダム・スミスとジェレミー・ベンサムの論争に触れている。
 「高利」という概念は多義的であるが、いずれにせよ否定的な評価を伴っている。動産や金銭の貸借にあたって、利子を一切とるべきではないという立場からすると──後で説明するように、こうした立場は歴史上、稀ではない──あらゆる利子は「高利」であって許されない。他方、ある程度の利子をとることは許されるが、破格に高い利子をとることは借手の事業と生活を破綻させるし、そうした行為が広まると健全な事業主が資金に欠乏することになり、一国の経済にも悪影響を与えるので許すべきでないという立場もある。……

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憲法学の散歩道
第10回 若きジョン・メイナード・ケインズの闘争

憲法学の散歩道 8月 03日. 2020

 1914年6月28日、オーストリア=ハンガリー帝国の皇太子、フランツ・フェルディナントは、6年前に同帝国に併合されたボスニアのサラエヴォで暗殺された。
 彼の暗殺を企て実行に移したセルビア人たちはすべて10代で、腕利きの暗殺者ではなかった。1人が投げた爆弾は皇太子の車のトランクで跳ね返って後続の車両を破壊した。フェルディナントはしかし、視察を継続すると言い張る。彼の車両のチェコ人の運転手はサラエヴォの街並みに不慣れで、道を間違えた。戻ろうとして運転手が車両を止めたのは、ちょうどテロリストの1人の面前であった。彼は皇太子を射殺し、夫人に重傷を負わせた。……

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憲法学の散歩道
第9回 「どちらでもよいこと」に関するトマジウスの闘争

憲法学の散歩道 7月 09日. 2020

 啓蒙思想家として知られるクリスティアン・トマジウスは1655年、ザクセン公国のライプチヒに生まれた。父のヤーコプ(1622-84)は、ライプチヒ大学の哲学教授であった。クリスティアンは、1669年、同大学に入学し、1672年に修士号を取得する。
 1672年は、ザムエル・プーフェンドルフの『自然法と万民法De jure naturae et gentium』が刊行された年でもある。クリスティアンは後に、プーフェンドルフの自然法に関する著作と父親のグロティウスに関する講義とを、彼を法学の研究へと向かわせた主な要因として挙げている。……

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